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両立する親しみやすさとハイエンド、「Nord Wave 2」

4月1日より“「Nord Wave 2」体験モニタープログラム”に参加しておりまして、2ヶ月もの間、「Nord Wave 2」と戯れられる権利を与えていただきました。

ソフトウェアの機能について触れた『「Nord Wave 2」を一流たらしめる、外濠の品格』に続きまして、今回は本体のお話をさせていただきます。

「Nord Wave 2」とは

Clavia「Nord Wave 2」は、61鍵タイプ(アフタータッチ付きウォーターフォール鍵盤)のジェネラリストなシンセサイザーです。

▲格調高さを醸し出す「Nord Wave 2」のウォーターフォール鍵盤は、普通に弾くとやや浅めの深さ(8mm)ですが、ちょっと力を入れるとググッと深く押し込むことができ、アフター・タッチを絡めた演奏がしやすくなっています。

音源は、バーチャル・アナログ/ウェーブテーブル/FM/サンプルの4種類を搭載。これらを最大4レイヤーぶん自由に組み合わせて、多彩な音色を作れます。ちなみに、4つの音色をレイヤーできるとはいえ、マルチ・ティンバーではありません。4オシレーター構成のシングル・ティンバー(ただし、それらのオシレーターたちは互いに影響し合えない)、と考えるのがシンプルかと思います。

新しい進化の途を拓くシンセ機能

「Nord Wave 2」のパネルには、大きく分けて4つの機能が効率的に配置されています。1つ目は、演奏の表現力を高めるパフォーマンス機能。2つ目は、音色を制御するプログラム機能。3つ目は、音作りの核となるシンセ機能。4つ目は、音色に彩りを添えるエフェクト機能です。まずは、シンセ機能を掘り下げてまいりましょう!

親しみやすさMAXなのにハイエンド

パネルをザッと眺めると、オシレーター/アンプ・エンベロープ/フィルター/LFOが整然と並んでいて、一見、シンセサイザーらしいパラメータが過不足なくひととおり揃っているように感じられます。しかし、じっくり観察していくと、どれも“何かちょっとずつ足りない”んですよね。オシレーターで言えば、サブ・オシレーターがありませんし、ピッチ・エンベロープ周りもやや省エネ化されています。FM音源ファンは、オペレーター選択パラメータの不在に頭を抱えるかもしれません。アンプ・エンベロープのベロシティ・カーブはやたらザックリしていますし、フィルターのベロシティ・センスはオン/オフだけです。

人は見た目が9割。シンセも見た目が9割。「えっ、美味しいところだけをそれっぽく詰め合わせた、なんちゃって系シンセなのッ!?」と、不安になりつつプリセット音色をオーディションしていくと…… 「Nord」ブランドの名に恥じない極上のサウンド! エディット時の吸い付くような快感もまったく損なわれておらず、しっかりと“シンセサイザー”していたのでした! これはつまり、そもそものパラメータを絞りに絞り込み、その状態でハイエンド・シンセサイザーとして成立するように設計した、ということなんだろうと思います。本来200個あるパラメータからよく使う30個を選別して前面のツマミにアサインしておきました(残りは、階層をほじくって探してください)、という類いのクイック・エディット的な発想のプロダクトでは絶対に辿り着けない、高級感とスピード感を伴う親しみやすさが癖になります!

フィクサーは、[OSC CTRL]!

戯れる時間が増えるほど「あぁ、そういうことか!」と、当初見つけられなかった工夫の数々に幾度となく驚かされましたが、そういった工夫の中でも特に、パネル中央左に配された“[OSC CTRL]の挙動”は、「Nord Wave 2」独自の美しい設計思想の軸になっている、もっとも重要な工夫と言えましょう。

前述のとおり、4つのレイヤーそれぞれに1基ずつ搭載されているオシレーターは、完全に独立していて互いに影響を与え合うことができません。言い換えれば、オシレーターでオシレーターを変調するクロス・モジュレーションなどの機能が削ぎ落とされている、ということにほかなりませんが、ここで[OSC CTRL]が器用に立ち回り、バーチャル・アナログ音源のオシレーターを単体でクロス・モジュレーションっぽい波形に変えてくれるため、それに起因するもの足りなさを一切感じさせないのです。また、オペレーター選択さえできないFM音源ですが、「このアルゴリズムで作れる音楽的な音色って結局この辺でしょ?」とでも言いたげに“使える音”だけをお膳立てしてくれるのも[OSC CTRL]だったりします。さすがに“AI的”と表現するのは過誉だと思いますが、でもまぁ、そう言いたくもなるくらい、シェイプ・アップされた仕様を変幻自在に肉付けし直してくれる優秀なパラメータなのであります(パネルをよく見ると、[OSC CTRL]と[FREQ]の下地だけが灰色で抜かれています。これは「とりあえず、それだけイジっておけば問題なし!」という、開発者の方からの優しいメッセージなのかもしれませんね)。

このように、親しみやすさを最優先し、過度にマニアックなエディット機能を削ぎ落としたことで、ハイエンドなものは小難しいという常識を覆した「Nord Wave 2」。これまでにも“縦横無尽”という表現を用い、“目指すサウンドへのアクセスしやすさ”を強調するシンセは多数ありましたが、音の良さまで含めて総合的に判断するならば、「Nord Wave 2」に比肩するプロダクトは存在しない、と言っても過言ではないでしょう!

アンサンブルの中で“立つ”サウンド

“絶対的なシンセサイザーの音の良し悪し”というのは、なかなかに難しい命題でありますが、“混ぜやすさと立たせやすさ”というポイントに焦点を絞れば、ある程度普遍的な答えを導き出せる、と思っております。

◆access「Virus TI2 Polar」

◆Clavia「Nord Wave 2」

まったく同じMIDIデータを、似た傾向のプリセット音色で鳴らした上記2つのサウンド。access「Virus TI2 Polar」の方は、――無論大好きなシンセですが、ちょっとだけ噛ませ犬になっていただきましょう――ステレオ感が強くパッと聴きの破壊力は抜群ながら、これ一本で勝負するならいざ知らず、J-POPのように緻密なアンサンブルの一員として扱うとなると、混ぜにくくて立たせにくい、かなり厄介なサウンドと言えるでしょう。

一方で、「Nord Wave 2」の方は、音像がハッキリしていて立たせやすく編集耐性も高いので、音数の洪水のようなアンサンブルの中でもしっかりと居場所を作ってあげやすいサウンドです。こうしたサウンド評は、「Nord」ブランドのプロダクト全体をとおして、しかも、あらゆる時代で異口同音に聞かれるので、会社として貫いている揺るぐことのないポリシーなんだろう、と思います。


ちなみに、梅雨前に作ったこの曲では、エレピ/ベース/パッドなど、約4割の音を「Nord Wave 2」が担当してくれています。雨音→ドラム→アコギという順番で外側から曲の骨格を固めていったため、制作後半にエレピとベースの音色作りで悩むことになったのですが、混ぜやすくて立てやすい「Nord Wave 2」のサウンドがとても良い仕事をしてくれました。

「Nord」と言えば、モーフ

続いては、演奏の表現力を高めるパフォーマンス機能を掘り下げてまいります。パフォーマンス機能は、「Nord」の代名詞にもなっている木製のピッチ・ベンドと石に似たアルミ製ホイールが目を引く、パネル左端にまとめられています。

余談ですが、私には“「Nord」と言えば、モーフ”という強いイメージがあります。これは、私がちょうど「Nord Lead 2」を購入した頃の当時の国内代理店が、「バーチャル・アナログ・シンセの先駆である」というポイント以上に、「世界初の本格的な音色モーフィング」というポイントを推しまくっていたことが根底にあるのではなかろうか、と思います(“モーフィング”なる用語自体がまだまだ新鮮だったのでしょうね)。

▲世界で一番、情緒ある操作ができるピッチ・ベンド! そして、世界で一番、触り続けたくなる質感のホイール!

さて話を戻しまして、そのモーフをメインで司るのが、パフォーマンス機能の一部である先述のアルミ製ホイールです。ユーザーが始点と終点に異なるパラメータ値を指定してホイールを転がすと、シンセ側が自動でその中間のパラメータ値を補完。音色を、なめらかに破綻なく、それでいてドラスティックに変化させることができます。しかも、アサインできる対象は、驚くなかれ、ボタン以外のほぼすべての操作子! カットオフとレゾナンスとピッチLFOのレートを上げながら、レイヤー1の音量を下げつつレイヤー2の音量を上げる、といった2本の腕では到底成し得ない音色変化を、ホイール回転だけでいとも簡単に実現できてしまうわけです。また、本機のサンプル音源にはベロシティ・レイヤーがありませんが、モーフのソースをベロシティに設定し、2つのレイヤーを良い塩梅でクロス・フェードするように調整すれば、擬似ながらベロシティ・レイヤー感のある音色を作成することも可能です。

このように、工夫次第で何でもできてしまうモーフは、一本調子になりがちなデジタル楽器に感動的な経時変化をもたらす、最高にエモーショナルなツールなのです。

……だがしかし! それで満足しないのがオリジネーターのオリジネーターたる所以。近年の「Nord」シリーズには、インパルス・モーフという新たなモーフが追加されておりまして、こちらは、ホイールの回転によるなめらかな変化ではなく、ボタンのオン/オフによる急激な変化が特徴。インパルス・モーフのおかげで、例えば、音程を一気にオクターブ上にシフトさせるDIGITECH「Whammy」のような表現や、レス・ポールの“スイッチング奏法”のようなスライサー的表現など、ホイールの形状では逆に難しかった表現が可能になりました。

そう、僕らはEQがあれば戦える!

最後に、音色に彩りを添えるエフェクト機能を見てまいりましょう。エフェクト機能には、6種類のモジュレーション/2モードのEQ/凝った作りのディレイ/5種類のリバーブが搭載されています。

ところで、今現在の学生バンド事情って、どうなんでしょう? 正しい知の共有が進み、理論派ギタリストが増えて、昔ほどキーボーディストが割を食うことも少ないのかもしれません。

私が大学のサークルで鍵盤弾きとしてバキバキとライブ活動をしていた頃は、“とにかくフルテン&爆音&俺様俺様”な、イングヴェイの生霊が取り憑いたとしか思えないギタリストばかりで、キーボーディストは彼らが作り出す轟音の壁(故フィル・スペクターさんが紡ぎ出す“ウォール・オブ・サウンド”ほど高尚なものじゃあございません)の間隙を縫うようにリアルタイムで音色を調整できなければ、“演奏していないのに何故かステージに突っ立っている謎の人”に成り下がってしまう、恐ろしい時代でした。

そうしたシビアな調整時に一番頼りになるのは、間違いなく「EQ(イコライザー)」でしょう。「Nord Wave 2」も、“弾いてナンボ”の「Nord」ブランドだけあって、しっかりとEQが搭載されています。加えて、「固定2バンド」モードと「パラメトリック」モードを切り替えられる豪華仕様。このEQと、カットオフ、ドライブあたりを駆使すれば、どんな轟音ギタリストとも対峙できる気がします!

感動を与えてくれる「Nord」ブランド

「Nord Wave 2」の各機能を掘り下げながら、開発者の方とのバーチャルな対話を楽しんでみたり、進化に素直な感動を覚えてみたり、昔話を展開してみたりしてきました。純粋に音を奏でる楽しさはもちろん、こうした脱線的な楽しさをも提供してくれるのは、「Nord」ブランドの圧倒的な懐の深さがあってこそ。楽器として成熟している証左なんだろうなぁ、としみじみ思います。

ということで2ヶ月間の体験モニタープログラムはこれにて終了、「Nord Wave 2」とは涙のお別れです。……が、案の定、今の私は我が家に「Nord」ブランドのプロダクトをお迎えしたい気持ちでいっぱいなのでした!

触っていると強烈に「“楽器”だなー」と感じるシンセサイザーです!
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