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低音の整理はこれ1台、Tone Projects「Basslane Pro」

2022年もそろそろ終わりに近づいてきました。「今年も大好きな機材にいっぱい恵まれたなぁ~」なんてことを思いながら、この記事を書いております。一つひとつの想い出を、しっかり丁寧に遺しておかねば!

「Basslane Pro」とは

Tone Projects「Basslane Pro」は、低音の“広がり”をコントロールできる、VST/Audio Units/AAX互換のプラグイン・エフェクトです。

「音の広がりをコントロール云々……」というフレーズを目にするとつい、位相をゴニョゴニョした音や、左右チャンネルを単純に加算してモノラル化した音を原音に混ぜ込む、いわゆる“ステレオ・イメージャー”的なエフェクトを真っ先に思い浮かべてしまいます。……が、そこは我らがTone Projects! フェイザーやフランジャーのようなシュワシュワ感を伴うこともなければ、微妙な位相差の打ち消し合いでパワーが減退することもない、期待を大幅に超える超美麗プロダクトに仕上げてくださっております。

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さっそく次項より、その秘密をひとつずつ観察してまいりましょう。

機能の詳説

「Basslane Pro」は主に、ステレオ幅を調整する“メイン・セクション”、倍音を調整する[Stereo Harmonics]、ダイナミクスを調整する[Dynamics]、という3つの機能で構成されています。

メイン・セクション

ど真ん中に置かれた[WIDTH]ツマミを左に回すと低音のステレオ幅が狭まり、右に回すと低音のステレオ幅が広がります。[WIDTH]ツマミで調整する周波数帯を変更するには、左側の[FREQ]ツマミを使いましょう。基本的には低音域(~600Hz)に用いるエフェクトですが、2.5kHz(中音域)まで取り扱うことができます。

ちなみに、右上の[Solo]ボタンを押せば、[FREQ]ツマミで設定された音域(=エフェクトがかかっている音域)のみをモニタリングできます。エフェクトのかかっている範囲がわかりやすくなるのと同時に、思いがけないくらい低い音がミックス全体に対してこれほどまで大きな影響を及ぼすんだ! ということを痛感できます。

[Stereo Harmonics]パート

[Stereo Harmonics]パートでは、低音成分から生成される倍音によってステレオ幅を拡張します。元の低音ではなくその倍音を使うため、芯のブレを極力発生させず透明感を保ったまま、音楽的でキメの整った迫力を付加できるのが特徴です。

また、ステレオ幅を広げず倍音だけを足す、という使い方をすれば、アナログのマイク・プリアンプのような効果を得られます。

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[Dynamics]パート

[Dynamics]のパートには、同社「Unisum」の血を受け継ぐ、高品位なコンプレッサー/エキスパンダーが積まれており、低音の密度感/融合感/パンチ感を調整できます

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ステレオ幅をグイグイと広げれば広げるほど、どうしても目立ってしまう音の暴れや濁りを、このパートでキリッと整えます。

サンプルをご用意いたしました

数点、試聴ファイルをご用意いたしました。「Basslane Pro」のパワフルなサウンドをジックリご堪能くださいませ! なお、個別トラックのステレオ幅を綺麗にコントロールできたとしても普通過ぎて面白くないので、あえて、ドラムとベースが合流するバスに「Basslane Pro」を挿しております。

◆無加工→ステレオ幅を広げる

[WIDTH]ツマミをグイッと右に回して、やや大げさに迫力を出してみました。ガッツリ広がったベースとは裏腹に、ドラムの金物など中高域での音質/定位変化はほとんど感じられません。

◆無加工→ステレオ幅を狭める

[WIDTH]ツマミを0%にして、低音を完全モノラル化しました。左右に散っていたバス・ドラムの部屋鳴りが、センターにキュッと集まってくれています。一方、スネアの部屋鳴りには影響がない点にご注目ください。

◆無加工→イイ感じにする

低音をややセンターに集めてタイトに整頓するとともに、自然な質感を失わない程度の倍音を注入しました。まるでベーシストが一歩前に出てきたかのような立体感が生まれましたね! それでいて、“別室で収録しました感”が満載だったベースとバス・ドラムの絡みも、たいへん良くなりました。

Tone Projectsにハズレ無し

過剰にステレオ演出されたシンセ・ベースに確かな軸を与えたり、リスニング用の楽曲をナロウにクラブナイズしたり、ループ素材のとっ散らかった低域を整理して使いやすくしたり…… そこいらのステレオ・イメージャーとは一線を画す「Basslane Pro」の能力は、音楽家のクリエイティビティを手軽に、数段高めてくれることでしょう。

私はよく、バス・ドラム/ベース/サブ・ベース/ウーシュなど、低音成分のみを集めたバスを作ってミックスの調整を行なうのですが、今後はそのバスに、この「Basslane Pro」の“指定席”を設けるつもりです!

フリー版もありますぞ

実は、今回ご紹介した「Basslane Pro」には、「Basslane」というフリーウェア・バージョンも用意されています。[WIDTH]ツマミが狭める方向にしか動かせない、という決定的な制限こそありますが、「Basslane Pro」の素晴らしい能力やTone Projectsの高い技術力の一端を垣間見るには十分過ぎる大盤振る舞いプロダクトなので、ご興味を持たれた方は、ぜひ、お試しいただければ、と思います!

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