突如として、積み重ねる日々が空虚と無力の塊と化した2020年が、気づけばもう終盤を迎えています。そろそろ、毎年恒例となっているSteinberg「Cubase」シリーズのお布施会が催されたり(私は今年も“Day One 寄進”をしますぞ!)、ブラック・フライデー・セールに向けて買い控えをはじめたりと、忙しい季節がやってきますね。
ということで、当たるも八卦当たらぬも八卦、2021年以降のDTM事情を占ってみようと思います。
次のトレンドは、もう決まっている!
旧来は、世俗の流れから隔絶された“世捨て趣味”的な立ち位置だったDTM業界も、新たな定義を得てからは、やれVOCALOIDだ、マルチ・チャンネルだ、ガジェット・シンセだ、ユーロラック・モジュラー・シンセだ、VR/AR/MRだ、FMシンセだ、とトレンドの波に翻弄されることも増えてまいりました。
さて、トレンドが生まれるところには、消費が生まれる。消費が生まれるところには、投資が生まれる。その投資をしっかりと全身で受け止めて、次につなげていくことは、クリエイターの大切な使命のひとつであります。となると、気になってくるのは、“次のトレンド”でありましょう。
ご安心ください、それはもう明確です。“オブジェクト・ベースのイマーシブ・オーディオ”で確定です!
チャンネル・ベースについて
モノラル時代はさておき、ステレオ時代は、左右のスピーカーから出力される音に音量差をつけることで“音の定位”を作っていました。サラウンド、とりわけ5.1ch時代は、6つのスピーカーから出力される音に音量差をつけることで“音の定位”を作っていました。
これらの従来的な音の定位の設定法は、“チャンネル・ベース”と呼ばれます。
チャンネル・ベースは、各スピーカーの音量を数値でピタッと厳密に指定できるので、再生環境さえ一致していれば、制作者の意図を完璧に再現させられますし、数値入力をこよなく愛する日本人の几帳面な気風にもよく合致しているため、現在、もっとも広く受け入れられています。
しかしながら一方で、チャンネル・ベースは、聴き手の再生環境の多様化に伴った“バージョン違い(ステレオ・バージョン/ヘッドフォン・バージョン/5.1chバージョン/7.1chバージョンなど)”を爆増させる元凶となったり、音にあまり詳しくないプロモーション担当者がうかつなダウン・ミックスによって大切なPVをモノラル化させてしまう、という悲惨な事故の原因となったり(よくある)など、厳密さゆえの弱点も持ち合わせています。
オブジェクト・ベースについて
そこで台頭してきているのが、“オブジェクト・ベース”という考え方。
各スピーカーから出力される音量を数値で決め込むのではなく、聴き手を中心に据えた仮想の三次元空間に点音源(あるいは面音源)を配置し(あるいは移動させ)、その聴こえ方を計算で導き出す、という手法です。
計算で導き出す、というのがポイントで、その計算プロセスには“再生機器側の音場補正”も含まれますから、クリエイターは、聴き手の再生環境のスピーカー数や配置に頭を悩ますことなく、実現したいことの本質にだけ没頭できます。
これはつまり、クリエイターが、聴き手の右斜め45度に点音源オブジェクトを置く、という設定をしたならば、聴き手の再生環境がステレオだろうが、ヘッドフォンだろうが、5.1chだろうが、7.1.4chだろうが、誰しもが平等にクリエイターが意図したとおりの“右斜め45度からの音”を享受できる、ということです。
無論、スピーカーが2つしかない環境でリスナーの後ろにオブジェクトを回したら変な聴こえ方になるだろ! とか、計算の過程で端折っている部分があるから音質が劣化しているだろ! とか、“ベッド”は結局チャンネル・ベースじゃねーか、ズルいだろ! というチャンネル・ベース原理主義者からの手厳しい指摘も多々ございます(そして、その指摘は実際すべて正しい!)。
ですが、それらの反論には、オブジェクト・ベースのメリットをへし折るほどのパワーはなく、チャンネル・ベース原理主義者の皆さまにおかれましては、己の信じた道が本流から支流のひとつになる、という未来を受け入れていただかねばならない、と思うのです。
線から面、面から立体へ
これからの時代、フルHDだった映像が、4Kとなり、8Kとなっていくのは疑う余地のないことです。
それに合わせてDTMも、ステレオ(線音響)からサラウンド(面音響)、サラウンドからイマーシブ・オーディオ(立体音響)へと移行していくことでしょう(あまり知られていませんが、「YouTube」はすでに、「1st Order Ambisonics」というイマーシブ・オーディオのフォーマットに対応しています)。そして、イマーシブ・オーディオの中でも特に“オブジェクト・ベースのイマーシブ・オーディオ”が主役になるのだ! というお話でした。