「SERUM」、実はまだ持っていません。売れに売れていますからね、私の中の天の邪鬼が必死に妨害するんです。ですから私は「Viper」という、ややマイナーなソフト・シンセを購入することにしました。
「VIRUS TI」がモデル
「Viper」は、バーチャル・アナログ系のVSTi互換ソフトウェア・シンセサイザーです。
外見から、いかにもバーチャル・アナログな「ビチビチ」「ミチミチ」した音が得意なのかと思いきや、FMのような「キラキラ」「コロコロ」した音、SuperSAW直球ど真ん中の音、天使が舞い降りそうな「フワフワ」「シュワシュワ」した音など、生楽器以外のあらゆるシンセ・サウンドを器用に、いや、相当なクオリティで作り出すことができます。
たいした掘り出し物だ! と沸き立ち、この「Viper」について少々掘り下げてみましたところ、なんでも、誰もが認めるバーチャル・アナログ・シンセサイザー最高峰の一角、access「VIRUS TI」をモデルに開発されたそうでして、逆に「VIRUS TI」の驚異的な化け物っぷりを別アングルからまざまざと見せつけられたようで、あまりの衝撃にゾワゾワッとしてしまいました(そして「VIRUS TI」が欲しくなる……)。
シンセの音、全部入りです
「Viper」の3つあるオシレーターのうち2つ(オシレーター1/オシレーター2)には、[Classic][Multisaw][Wavetable]という3つのオシレーター・モードが用意されています。
[Classic]は、サイン波/三角波/1サイクル波形(自作の波形も読み込めます)の中からひとつを選択して鳴らすことができるモードです。[Shape]ツマミを回すと、ノコギリ波や矩形波にモーフィングしていくのが特徴です。
[Multisaw]は、最大9つのノコギリ波を重ねて鳴らすことができるモードです。泣く子も黙るSuperSAW専用のモードですね。
[Wavetable]は、ウェーブテーブル波形をひとつ選択して鳴らすことができるモードです。ウェーブテーブル波形は、サンプラーのポン出しのように波形全体を最初から最後まで鳴らすわけではなく、一定の範囲をループして鳴らします。そのループ範囲を[Morph]ツマミを回し前後にスライドさせることで、持続的に変化する摩訶不思議なサウンドを得ます(こちらも自作の波形を読み込めますが、「Serum」などを使って、ウェーブテーブル波形のお作法に則ったファイル形式にしておく必要があります)。
オシレーター1とオシレーター2は、オシレーター2が[Multisaw]でなければ、オシレーター・シンク/FM/リング・モジュレーションなどの合わせ技が可能なので、ただレイヤーするだけでは絶対に到達できない、深みのある音色を手軽に作り出すことができます。この2つのメイン・オシレーターのほかに、3つめのオシレーター、サブ・オシレーター、ノイズ・ジェネレーターも控えていますから、Oscillatorセクションのスペックだけで、「Viper」の出音のすさまじさが十分に伝わるのではないでしょうか!
オシレーターが以外も秀逸
「Viper」は、2基のフィルターを積んでいて、そのルーティングを[Serial 4][Serial 6][Parallel][Split]から選びます。普通は、フィルター・タイプの選択でPole(音を削るカーブの鋭さ)を決めるものですが、ルーティングによってPoleが強制的に決まってしまう、不思議な仕様になっています。
技ありなのは、フィルター1の後段に組み込まれた、サチュレーション。レゾナンスで持ち上がった部分が飽和しゲゴゲゴするアナログ・シンセ的な雰囲気を、誇張し過ぎることなくイイ感じで再現しています。
LFOは3基積まれています。LFOセクションでは、LFOの波形や速度の設定だけを行ない、この後に出てくるMATRIXセクションで変調先を指定するのかと思いきや、この場で直接、ある程度(定番のオシレーターのピッチ/カットオフ/パンなど)の変調コントロールができてしまいます。便利です!
エフェクトは、[CHARACTER][DISTORTION][EQ][FILTER EFFECTS][PHASER][CHORUS][DELAY][REVERB]の8種類が搭載されているのですが、圧倒的イチオシは[REVERB]です。スッキリした透明感のあるサウンドで、「Viper」の素性の良さの大半は、この[REVERB]によってもたらされているのでは、と感じるほどです。
MATRIXセクションでは、複雑に変化するサウンドを作るための設定を行ないます。変化のきっかけを[Source]に、変化の対象を[Target]にそれぞれアサインし、その影響加減を[Amount]で指定します。ひとつのきっかけに対して3つの対象を割り振れるスロットが計6スロットあり、きっかけのダブりが許可されているため、極端な使い方をすれば、モジュレーション・ホイールの操作だけで同時に18個ものパラメータに影響を与えることが可能です(「MONTAGE」の“Super Knob”でさえ、8個のパラメータ操作が精一杯だというのに!)。使いどころのないパッチ・マトリックスの穴ぼこが何十個も用意されているより、100倍嬉しい仕様であります。
DAWのピアノロールに似た画面でパターンを構成する、ごく標準的なアルペジエイターではありますが、下段の数字(ステップ数)部分をズルズルとドラッグするとパターン全体が1ステップずつシフトする(しかも、起点と終点がループする)という謎機能を備えており、地味ながら創造を刺激してくれます。
上部中央のメイン・ディスプレイに表示された音色名をクリックすれば音色一覧を呼び出せるのに、なんでわざわざこんなセクションを作ったんだろう、と不思議に思っていたのですが、メイン・ディスプレイからでは何故か辿り着けない、サウンド・バンク(128音色の詰め合わせ)の切り替えが行なえます。
神は細部が大好きです
目に見えるパラメータの値はだいたいどれも0~127の整数なのですが(MIDI対応ですから、そりゃそうだ)、音が階段状にカクカク変化しないよう、内部的にはしっかりと補完がされています。この制御のおかげで、フィルターやピッチの変化がヒジョ~になめらかで、まるでハードウェアを触っているかのような気持ちになれます。
また、波形の頭がゼロ・クロスから始まっていないときに鳴る「パチッ」という音がほとんどしないのも、精密に設計されている証拠でしょう(シンセによっては、“立ち上がりの速いアタック感”みたいな謳い文句で、この「パチッ」をポジティブにとらえている機種も存在しますが、私はどうにも嫌いです)。どうしても「パチッ」が欲しい方のために、わざわざ[PUNCH]というクリック音ジェネレーターが用意されている点も粋ですねぇ。
使えば使うほど、細かいところまで音響的な配慮が行き届いているなぁ、と感動してしまいます。
最大の課題は低域か
あえて欠点を挙げるならば、低域のガッツ/粘りと、超高域のヌケ感が少々物足りないかもしれません。また、フィルターの切れ味が優しくふんわりしている(キュルルル…… とは鳴りません)のもツッコミが入りそうなポイントですね。
もしそれらが改善されることがあれば、「SERUM」「Sylenth1」「Spire」に比肩する、いや凌駕する“神シンセ”になれると思います!