さて今回は、先日「Repro」と一緒に購入した「Diva」の登場です。
「Diva」=“歌姫”というネーミングからは、まったく想像できなかったのですが、伝説のシンセたちの要素々々をすげ替えてリデザインするという、シンセ・マニアならば誰しもが一度は妄想するであろう仕様を具現化した、最強のバーチャル・アナログ・シンセサイザーでした。
「Diva」とは
u-he「Diva」は、バーチャル・アナログに属する、VSTi/Audio Units/AAX互換のソフト・シンセです。銘器と謳われるヴィンテージ・シンセサイザーが奏でるような王道シンセ・サウンドを得意とし、世界中のプロフェッショナルたちから激賞されています。
その極上サウンドの秘密は、フィルターに用いられている独自技術にあります。
一般的なフィルターは、レゾナンスの山を作り出すために一定量の信号をフィードバックしますが、このふるまいをデジタルで再現すると必ず遅延が発生します。しかし、アナログ回路ではデジタルのような遅延は生じないため、その両者のギャップが、音楽家たちにとっての“大きな違和感”に繋がる主因となっていました。そこでu-heは、“ゼロ・ディレイ・フィードバック・フィルターズ(ZDF)”という独自技術(例えば、2+6を計算し終わる前に追加で+3が来るだろう、という予想をしながら計算する仕組み)を開発し、「Diva」の中にアナログ感のある究極のフィルターを現出させたのです。
なお、「重い、重い!」と言われる原因のほとんどはこのZDF由来ですので、どうしてもプツプツしてしまう場合には、[MAIN]パネル内の[Accuracy]を[fast]、それでも重ければ[draft]に設定し、[OfflineAcc]を[best]に設定することで、リアルタイムではポリフォニー優先で端折った計算をするけれど、レンダリング時は最高クオリティで計算する、という“いいとこ取り”が可能になります。
もはやダンピング級のデカ盛りシンセ
「Repro」は、「Repro-1」と「Repro-5」とで1製品1機種ごとのエミュレーションでしたが、「Diva」では、Roland「αJUNO」「JP-8000」「JUNO-60」「JUPITER-6」「JUPITER-8」、Moog「Minimoog Model D」、KORG「MS-20」の全エッセンスを贅沢にエミュレート。しかも、オシレーター/フィルター/エンベロープの3要素をモジュール形式で自由に組み換えできるようになっている、という手の込みようです。
オシレーターは強力な「JUPITER-8」で、フィルターはやっぱり伝統の「Minimoog Model D」、エンベロープは独特なセンスが光る「αJUNO」だ! ……なんて感じで、ドリーム・チーム的シンセサイザーをリデザインできてしまいます。
加えて、各モジュール内のモジュレーション・ソースをオリジナルの仕様とは異なるものに差し替えられるのですが、その際には、「ダイモ・テープ(Dymo tape。日本で言うところの「テプラ」みたいな製品)」が貼られる、という渾身のギャグが仕込まれており、そちらも必見ですぞ。
モジュール・リスト
Roland「αJUNO」
Roland「αJUNO」をエミュレートしたセットがコチラ。オシレーター・モジュールに[DCO]、フィルター・モジュールに[VCF | MULTIMODE]、エンベロープ・モジュールに[DIGITAL]が用いられています。
実機は、ADSR方式よりもやや複雑なカーブ(ADBDSR方式。Bは“Breakpoint”)を描けるのですが、エンベロープ・モジュールの[DIGITAL]では割愛され、一般的なADSR方式が採用されています。その代わり、なのでしょうか、「αJUNO」のカクカク・エンベロープを再現するための[Q](Quantize)ボタンが装備されています。
Roland「JP-8000」
Roland「JP-8000」をエミュレートしたセットがコチラ。オシレーター・モジュールに[DIGITAL]、フィルター・モジュールに[VCF | UHBIE]、エンベロープ・モジュールに[ANALOGUE]が用いられています。[DIGITAL]と[VCF | UHBIE]は、バージョン・アップによって追加実装されました。
フィルター・モジュールの[VCF | UHBIE]は、ロー・パス~バンド・リダクション/バンド・パス~ハイ・パスへと滑らかに変化する“ステイト・バリアブル・フィルター”なので、「JP-8000」ではなくOberheimのシンセを再現しているようです(u-heのソフト・シンセは、オシレーターごとのパン設定など、所々にOberheimの要素が入っているのが印象的です)。挙動だけならば、[VCF | MULTIMODE]の方が「JP-8000」に近づけるでしょう。ちなみに昔、ダッチ・トランスが流行っていた頃に実機を所有していましたが、ぶっちゃけ、「Diva」ほどの分厚い音は出せません(無理して実機を探し求める必要性は、もうほぼ無くなりました)!!
それにしても、バーチャル・アナログを再現するバーチャル・アナログとは、歴史の入れ子構造のようで、楽しいですね。
Roland「JUNO-60」
Roland「JUNO-60」をエミュレートしたセットがコチラ。オシレーター・モジュールに[DCO]、フィルター・モジュールに[VCF | CASCADE]、エンベロープ・モジュールに[ANALOGUE]が用いられています。
真ん中にある[HPF | POST]は、ハイ・パス・フィルター・モジュールでして、最終段に適応されます(フローがわかりにくい……)。ところでこのハイ・パス・フィルター、u-heの解釈では0の下に[BOOST](低音ブースト機能)を設けていますが、「JUNO」シリーズの開発を担当された井土秀樹さん曰く、実機は0の状態ですでに低音を持ち上げていたそうです(1で本当のフラットになるそうな! ずっと騙されてた!)。
オシレーターにも若干のアレンジが加えられており、実機では、ノコギリ波と(パルス・ワイズを調整できる)矩形波とを混ぜて基礎となる音作りをするのに対し、「Diva」の[DCO]は、使い勝手の良い波形をスイッチで選択する方式に変更されています。実に合理的ですね。実機よろしく[PW]スライダーでパルス・ワイズを調整したい場合は、[pwm](パルス・ワイズ・モジュレーション)と名付けられた波形をセットしましょう(それ以外の波形では、[PW]スライダーが利きません)。
Roland「JUPITER-6」
Roland「JUPITER-6」をエミュレートしたセットがコチラ。オシレーター・モジュールに[DUAL VCO]、フィルター・モジュールに[VCF | MULTIMODE]、エンベロープ・モジュールに[DIGITAL]が用いられています。
「JUPITER-6」ってデジタルなパーツがあったのかしら? と、調べてみましたら、実機マニュアルに“デジタル化による、従来のアナログ制御方式では得られなかった正確な各種コントロール信号”と記載されていました。MIDI制御できるわけですから「そりゃそうか!」と納得しつつ、ひとつ、勉強になったのでした。
Roland「JUPITER-8」
Roland「JUPITER-8」をエミュレートしたセットがコチラ。オシレーター・モジュールに[DUAL VCO]、フィルター・モジュールに[VCF | CASCADE]、エンベロープ・モジュールに[ANALOGUE]が用いられています。
オシレーター・モジュールの[DUAL VCO]に搭載されている[SHAPE]パラメータは、生成される波形にちょっとしたクセを付加することで、ハードウェアのリビジョン違いを再現します。[ideal]なら計算上もっとも理想的な波形が、[analog1]なら角が取れて丸っこい波形が、[analog2]なら波頭に角のある明るい波形が、それぞれ生成されます。
Moog「Minimoog Model D」
Moog「Minimoog Model D」をエミュレートしたセットがコチラ。オシレーター・モジュールに[TRIPLE VCO]、フィルター・モジュールに[VCF | LADDER]、エンベロープ・モジュールに[ADS]が用いられています。全部、専用モジュールです。
“原点にして頂点”とでも言いましょうか、オシレーター・モジュールの[TRIPLE VCO]は、「Diva」でもっともCPU喰いなのだとか!
KORG「MS-20」
KORG「MS-20」をエミュレートしたセットがコチラ。オシレーター・モジュールに[DUAL VCO ECO]、フィルター・モジュールに[VCF | BITE]、エンベロープ・モジュールに[ANALOGUE]が用いられています。
フィルター・モジュールの[VCF | BITE]には、前期型/後期型の挙動を再現した[REV]パラメータが備えられています。
……こちらも「JP-8000」同様に、本家(のソフト・シンセ)よりも濃密なサウンドでございます。
音が良い、とにかく音が良い
7機種+αもの伝説的シンセサイザーたちのエッセンスが凝縮されていて、しかも、それらの要素を組み替えられる、という超豪華仕様もさることながら、そもそも、とにかく音が良い! のです。何の変哲もないプリミティブな矩形波を一発鳴らしただけでも、その濃厚な存在感に気圧されるくらい、素晴らしいサウンドなのです。
コンプ沼の終着駅がTone Projects「Unisum」ならば、バーチャル・アナログ・シンセサイザー沼の終着駅のひとつは、間違いなくこの「Diva」でありましょう!