タイトルは、実存主義の思想家フリードリヒ・ヴィルヘルム・ニーチェの格言「男が本当に好きなものは二つ。危険と遊びである」のパロディですが、今回はなんと、シンセのレビューにニーチェが登場します。それでは、どうぞ!
「Blofeld」とは
Waldorf「Blofeld」は、同社伝統の“ウェーブテーブル・サウンド”を凝縮したシンセサイザーです。
ウェーブテーブルとは、サンプラーのポン出しのように波形全体を最初から最後まで鳴らし切るのではなく、ひと続きの波形の中の一定の範囲だけをループして鳴らす方式の音源です。発音を持続したままループ範囲をスライドさせられるのが大きな特徴で、倍音の構成が時間軸とともに大胆に推移していく摩訶不思議なサウンドを作り出せます(逆に、ループ箇所をまったく移動させなければ、アナログ・シンセと似たようなサウンドが得られます)。
Waldorfはそのウェーブテーブル音源の名門メーカーであり、過去には、第一次バーチャル・アナログ・ブームを牽引した「Q」「Microwave II」「Microwave XT」、そして超弩級の大型シンセ「WAVE」といった歴史的銘器を開発、世界中の音楽家たちを魅了してきました。驚くことに「Blofeld」には、それら銘器たちに内蔵されていたウェーブ・テーブルが余すことなく収録されています(出力周りの部品が当時と違うため、完全に同じ音は出せませんが……)。まるで、近年のRolandのヤケクソPCM音源かのような大盤振る舞いっぷりです。買わずにいられましょうか!
いわば、WaldorfのNord Lead
以前、同社の「KYRA」を購入したときに、電源の入れ方やLEDの光らせ方などから『ほほう、これはWaldorfの「Virus TI2 Polar」なんですな』と思ったものですが、そういう意味では、「Blofeld」はWaldorfの「Nord Lead」である、と言えるかもしれません。
シンプル&スタイリッシュな金属製シャーシ、アフター・タッチが活きるプレイ・アビリティの高い音色群、触れているだけでも喜びがこみあげる高品位な操作子たち、本体右側の“好きなものを置いてねスペース”…… そういった「Nord Lead」的な要素の中に、いかにもWaldorfらしい“細部に神を宿らせたアート・ワーク”が溶け込んでいて、所有者に大きな幸福を与えてくれます。
最大の長所が最大の弱点
「Blofeld」は、リング・モジュレーション可能なオシレーター、歪み回路を持つフィルター、それらを変調するためのエンベロープとLFO、そして、サウンドを装飾するためのエフェクターとアルペジエイターで構成されています。
パッと見の建付けはベーシックですが、モジュレーション周りで入れ子構造を作れたり、「Q」譲りのメチャクチャ複雑なアルペジエイターを装備していたりと、表から見えにくいところがピッカピカに磨き込まれておりまして、メイニアックな御仁であれば「Waldorfさん、わかっていらっしゃいますね……」とニヤけてしまうことでしょう。
ただ、“オシレーターの素性だけでゴリ押しするマッチョな音作り”ではなく“細かい「技あり」を積み上げるタイプのテクニカルな音作り”を得意とすることが仇となり、アナログ・アウトの音量が非常に小さいのが困りものです(パラメータの相互作用が複雑で生成される音量の振り幅がとても大きく、それをクリップさせまいと過度に音量が制限されているのです)。ヘッドフォン・アウトに至っては、サーッというノイズが乗るほどです。
この“音量小さい問題(正確に言うと、音色の作り方によって音量が極端に小さくなる問題)”について、海外のフォーラムやブログでは、「D/Aのパーツがよろしくないんだ!」という意見もあるようですが、リミッターを入れるなり、32bit浮動小数点化するなりして音量を稼いでくれさえすれば、D/Aに由来するある程度の音質劣化は“味”として納得できたのではなかろうか、と思います。
だから「Largo」を買おう!
ところで、Waldorfの現行ラインナップには、「Largo」というウェーブテーブル音源のソフト・シンセが存在します。その「Largo」のアーキテクチャの大半は「Blofeld」と共通で、両者のサウンドのベクトルは非常に似通っています(細かい検証の結果、“98%同じ!”と結論づけているブログもあります)。
ですので、これから「Blofeld」を手に入れよう、と考えている方は、ぜひ一度「Largo」をチェックしてみてください。「Largo」ならば、“音量小さい問題”に悩まされることなく、「Blofeld」のサウンドを得ることができますぞ!