近頃のストンプ・ボックス・タイプのエフェクターの進化には目を見張るものがあります。Hologram Electronics「Microcosm」もそうでしたが、DSPの処理能力が大幅にパワー・アップし、複数エフェクトの並行処理が当たり前になって、想像できないくらい込み入った多層的な音演出が可能となりました。
そんなことを、散歩中に発見した八重桜の多層的な花びらを眺めながら想い出すのです……
「TE-2 Tera Echo」とは
BOSSコンパクト・シリーズの記念すべき100号機となる「TE-2 Tera Echo」は、未体験の不思議な音空間を実現する、ストンプ・ボックス・タイプのエフェクターです。
本記事では、“リバーブでもディレイでもない斬新な空間系エフェクト”の正体とは、という点と、Rolandの最新デジタル・テクノロジー「MDP(Multi-Dimensional Processing)」が用いられているメリット、という点について、特に深堀りしてまいります。
サウンドを解剖していきます
早速、「TE-2 Tera Echo」のサウンドの正体を要素々々に切り分けながら分解していこう、と思いますが、その前にまず、ユーザーが介入できるパラメータを整理しておきましょう。と言っても、4つしかないんですよね、超シンプル!
E. LEVEL(エフェクト・レベル)
エフェクト音の音量を調節します。プラグイン・エフェクトでお馴染みのDryとWetがクロスフェードするタイプではなく、原音の音量を保ちつつ、エフェクト音がどんどん大きくなっていくタイプです(センド・リターンじゃないので、そりゃそうだ)。
TONE(トーン)
エフェクト音の明るさを調節します。高域をバッサリとカットしてしまうローパス・フィルターとは異なり、2k~5k周辺を中心に鋭利な帯域のみをコントロールできる、専用のフィルターが用いられているようです。
FEEDBACK(フィードバック)
取扱説明書には、「エフェクト音の減衰を調節します」とありますが、エフェクト音全体ではなく、リバーブっぽい響きの部分のみが減衰の対象になっています。また、わざとそうしてあるのでしょうが、右に目一杯回すと、減衰→増幅となり自己発振します。
S-TIME(スプレッド・タイム)
取扱説明書には、「エフェクト音の長さを調節します」とありますが、フィードバックに入る前のエフェクト音のみが対象となっており、ツマミを右に回すほど、グリッチのような音の断片が繰り返し鳴る回数が増えていきます。
……どうやら、パラメータには、ディレイっぽい“パーティクル”を司るものと、リバーブっぽい“ドローン”を司るものがあり、それら2種類のエフェクトが絶妙に混ざり合って「TE-2 Tera Echo」のサウンドを形成している、ということが読み取れそうです。
さらに本質に迫るのだッ
では次に、ディレイっぽい“パーティクル”とリバーブっぽい“ドローン”の中身について、もう少し探ってまいりましょう。
パーティクルの正体
ディレイっぽい“パーティクル”は、前述のとおり、入力音のアタック成分から抽出されたであろう“グリッチのような音の断片”が何度も繰り返されるエフェクトです。この音の断片は、繰り返される回数が増えていくにつれ、「キュルル・ル・ル…ル……ル……」という風に、カットオフを絞りながら音同士の間隔が広がっていきます(テープ・エコーの再生速度を遅くしていく感じと似ていますが、「TE-2 Tera Echo」はピッチの変化を伴いません)。
「TE-2 Tera Echo」ではこの効果が、音のアタック(鳴りはじめ)の“すべてに”“個別で”適用されます。これをアナログで再現するのは、テープ・エコーを100台持っていても絶対に不可能です。アナログの表現を安価に代替するためのデジタル、という既成概念から半歩ズレて、デジタルでなければ成し得ないことを追求する、という「MDP」の設計理念を強く感じさせる部分です。
ドローンの正体
リバーブっぽい“ドローン”は、前段で生成したパーティクルのはじめの1音を、グラニュラー・シンセシス的な技術で引き伸ばし、「モフワァ~ン」としたリバーブっぽい響きに変換したうえで、そのサウンドを幾度も遅延再生させて創り出しているように感じられます。
「TE-2 Tera Echo」のこのドローン・サウンドは、“分離の良いリバーブ”としてギタリストたちから非常に高い評価を得ていますが、もし「パーティクルをグラニュラー・シンセシスで引き伸ばしたものがドローン」という私の仮説がある程度正しければ、そのサウンドはまさに、(禅問答のようですが)“原音由来だけど、原音とは乖離した音”になるわけで、それが意を得たように“原音を埋もれさせることなく寄り添って包み込むサウンド”と評されることは、開発者の方々によって完全にデザインされた“必然”なのだなぁ、としみじみ思います。
ちなみに、ペダル・スイッチを踏み込み続けると、[CHECK]インジケーターが緑色に点滅し、直後の1音のパーティクル&ドローンを保持し続けてくれる、という素敵な機能も用意されておりまして、これはご存知のとおり、グラニュラー・シンセシス用語で言うところの“フリーズ”なんですけど、フリーズそのものよりも、音という切れ目の不明瞭な素材に対し「MDP」がしっかりとアタック成分を見極められているというポイントに、一番驚かされるのでした!
シンセ・ユーザーこそストンプ・ボックスを
1990年代以降にリリースされたシンセサイザーには、たいてい、汎用的で高品位なエフェクターがひととおり内蔵されています。そんな恵まれた環境で育ったシンセ・ユーザーにとって、わざわざ数万円もする単体エフェクターを別途購入するなんてことは、“酔狂な行為”以外のナニモノでもないのかもしれません(しかも最近は、数千円で購入できるプラグイン・エフェクトも充実していますからね)。でも、だからこそ! より個性的で魅力ある音作りのために、あえてストンプ・ボックス・エフェクターを導入する、というのは、たいへん意義深い選択であると思うのです。
とはいえ、ストンプ・ボックスならば何でもかんでもオススメ! というわけではなく、EQやコンプレッサーなど、精密さがクオリティに直結するエフェクト類は、正直プラグインやアウトボードに分があると思います。しかし、歪み系/空間系/モジュレーション系など、“曖昧でも問題ない、いやむしろ曖昧さこそが旨味”なエフェクト類は、プラグインには出せない独特なサウンドを醸し出してくれ、とても重宝するはず!
ということで、機会があれば、「TE-2 Tera Echo」を含めたストンプ・ボックス・エフェクターたちを、ぜひチェックしてみてください。