4月1日より“「Nord Wave 2」体験モニタープログラム”に参加しておりまして、2ヶ月もの間、「Nord Wave 2」と戯れられる権利を与えていただきました。
そこで得た知見を共有せんがための本記事なのですが、本体のお話よりも先んじてソフトウェアのお話をしてしまう、極めて軽率な私を、どうぞお許しください。
「Nord Sound Manager」とは
Clavia「Nord Wave 2」は、バーチャル・アナログ/ウェーブテーブル/FM/サンプルの各音源を最大4レイヤーぶん自由に組み合わせて、最短距離で最高の音色を構築できる、パフォーマンス・シンセサイザーです(本体についての記事は、後日改めてしたためさせていただく予定)。
無論、本体のみで十分にその能力のすべてを堪能できるわけですが、「Nord Sound Manager」と「Nord Sample Editor 3」という2つのソフトウェアを介してパソコンと連携すると、使い勝手とユーザー・エクスペリエンスが劇的に向上します(ハードウェア内のソフトウェアの出来はソコソコ良いのに、パソコンで動かすソフトウェアの出来が著しくしんどいメーカーがやたら多いシンセサイザー業界にありまして、“Nord”のソフトウェアはホントにしっかりしていて信頼できます!)。本記事では、外濠とも言えるそれらのソフトウェアに焦点を絞って、「Nord Wave 2」の魅力を(斜め後方から)ご紹介してまいります。
さて、「Nord Sound Manager」は、「Nord Wave 2」本体に記録されているプログラム(=音色)を管理するためのライブラリアン・ソフトウェアです。溢れ出る創作意欲によって本体では収容し切れなくなったプログラムたちをバックアップしてパソコンのストレージに退避したり、ライブのセット・リストに沿わせてプログラムの並びを整頓したり、本体での命名を面倒臭がって溜まってしまったUnnamedプログラムの山を厨ニな英単語にリネームしまくる通称“開眼式”を執り行なったり、といったことがサクサクできます。
動作チェックがてら、まっさらな工場出荷状態でバックアップを取ってみたところ、900MBほどの[.nw2b]ファイルがひとつ、吐き出されました。[.nw2b]ファイルには、音色パラメータだけでなく、サンプル音源で使われているサンプルもパッケージングされており、生成にはそれなりの時間を要しますが、終始“道半ばでうんともすんとも言わなくなる系”の怪しい挙動とは一切無縁でしたので、安心して待っていられます。ありがたや~。
ところで、カッコいい英単語を厳選して命名した“渾身の音色名”が増えてくると、だんだんどんな音が鳴るんだかわからなくなってきて混乱を招くものですが、そういう場合は、[Info]ボタンを押下して、右端に現れる“4つのレイヤーの構成リスト”を参照してください。地味に便利で助かると思います。
「Nord Sample Editor 3」とは
他方、「Nord Wave 2」で使用するための“カスタム・サンプル・インストゥルメント”を作成し、本体に転送するのが「Nord Sample Editor 3」の役割です。
こんなこともあろうかと(!?)、昔から、気に入ったシンセの音色は必ずマルチ・サンプリングしておりましたので、そのコレクションの中からいくつかを見繕ってカスタム・サンプル・インストゥルメント化し、「Nord Wave 2」に転送してみよう、と思います。
とりいそぎ発掘したのは、銘機中の銘機、YAHAMA「EX5」で自作したピアノ音色。C1からE6まで、白鍵をすべてサンプリングした48kHz/24bit/ステレオ×38ファイル=計104MBのWAVファイルたちを、「キー・アサインが面倒そうだなぁ……」なんてことをモヤモヤ考えながら、「Nord Sample Editor 3」の画面中央にまとめて放り込みます。
すると…… なんということでしょう! 自動で、ほぼ的確なキー・アサインを済ませてくれたではありませんか! 一番面倒な作業が終わってしまえば、あとは楽チン。ピッチ・シフトで足りない音程を補う範囲を指定する([Zone Boundary])だけです(もし強いコダワリがなければ、この作業さえ省略してしまっても、ほとんど問題ないと思います)。
専用機に匹敵する、充実のエディット機能
今回は、キレイに下処理したWAVファイルを頭からお尻まで鳴らし切るので一切エディットしませんでしたが、「Nord Sample Editor 3」は、大雑把にサンプリングしたファイルに対して起点/終点/ループ範囲を指定し、意図した鳴り方に追い込むための専門的な編集機能を多数備えています。ちなみに、そういった細やかなエディットを行なう際は、「Nord Wave 2」本体の鍵盤を押さえて、エディットしたい音程をアクティブに切り替えながら進めると、グンと効率が上がるでしょう。
また、[Oラベル]以降の<empty>プログラムなどで該当のサンプルを呼び出しておくと、音を聴きながらパラメータを微調整することも可能です。音を聴きながら…… と言ってもさすがに、「Nord Sample Editor 3」でのエディットがリアルタイムに本体へ反映される、ということではなく(サンプルを扱っており、ただの音色パラメータの設定とはわけが違いますからね)、[SAVE&TRANSFER TO NORD]を繰り返しながら(今回の場合、セーブ1回あたり10秒もかかりませんでした)、「さぁ、どうなったかな~」と逐次確認ができる、くらいのイメージで捉えていただければ、と思います。
そうこうして完成したカスタム・サンプル・インストゥルメントを「Nord Wave 2」本体に転送してみます。インポートする前は、48kHz/24bit/ステレオ×38ファイル=計104MBのWAVファイルたちでしたが、「Nord Sample Editor 3」によって、[.nsmp3]ファイルという、たった10.0MBのカスタム・サンプル・インストゥルメント・ファイルにまとめられました。これが「Nord Wave 2」本体に格納されることになります。ファイル名に奇しくもMP3という文字列が刻まれていますが、MP3エンコードをかませているわけではなく、「良しなにロスレス圧縮している」とのことでした。
◆「Nord Wave 2」にインポートしたYAHAMA「EX5」のピアノ音色
◆ついでにインポートしたRoland「JD-800」のピアノ音色
両方とも、紛れもなく「Nord Wave 2」のアウトプットから出力されたサウンドです。これだけ再現できれば、「EX5」と「JD-800」をえっちらおっちら担ぎ出してこなくとも、「Nord Wave 2」ひとつで、それらの魅力的なピアノ音色をまかなえそうです。荷物の数をできるだけ厳選したいライブ派の方々にとっては、福音のような機能なのではないでしょうか!
ループ範囲の指定、今昔物語
私は、ゲーム・サウンド・デザイナーという職業柄、波形編集ソフト(「Sound Forge」)を使って、サウンド・ファイル内に“ループ範囲”を指定する機会が多々あります。具体的には、例えば、川のせせらぎSEやフィールドBGMなど、繰り返してずっと鳴らしたい音のファイル内に「ここからここまでをループ再生してください」と決めておく“メタ情報”を埋め込む作業のことなのですが、世に数多あるサンプラーたちも、同一の“メタ情報”を用いてループ範囲の指定を行ないます。
そこで試しに、「Sound Forge」を使いループのメタ情報を埋め込んだWAVファイルを「Nord Sample Editor 3」にインポートしてみました。「Nord Wave 2」に搭載されているサンプル音源は、機能としてはサンプラーそのものですから、ループ範囲の指定をしっかり受け取ってくれるだろう、と考えたのです。が、その期待とは裏腹に、「Nord Sample Editor 3」はループのメタ情報を完全に無視! 刹那、「フンガー!!」と憤慨しかけましたが、画面中央下の[LOOPED]をポチッとクリックしますと、良さげなループ範囲をサクッと割り出したうえに、音量の適正化から位相のつじつま合わせまで瞬時にお膳立てしてくださったので、逆に恐縮してしまいました。
20数年前、ダウジングよろしく、Antares Audio Technologies「Infinity」とにらめっこしながら「Sound Forge」でチマチマと破綻なきループ範囲を探し当てていた大先輩たちの気の遠くなるようなご苦労は、今や技術革新によって、ワン・クリックで完結してしまう“ノー・タイム作業”となっていたのです! ちゅどーん!
……まぁ裏を返せば、ループのメタ情報をバリバリ使っているサンプラーの資産(もはや遺産か)を、完全互換で活用することは少々難しいかもしれません、ね。
神も感動も、細部が大好き
ということで、松山英樹選手を支える早藤将太キャディのように、「Nord Wave 2」をより一層輝かせる2つのソフトウェアたちをご紹介いたしました。
ハードウェア・シンセサイザーに付帯するソフトウェアというと、どうしてもオマケ的な位置づけにおとしめられがちではありますが、グッとこらえて手を抜かずカッチリ作り込めば、やっぱり本体と同じくらい感動してしまうものなのだなぁ、と再認識いたしました。神も感動も、細部がお好きなようです!