Lo-Fi Hip Hop全盛の今、オリジナリティのある“汚しエフェクター”の需要がかつてないほど高まっているように感じられます。その解をアナログ方面へ求める方が大多数を占める中、デジタル化の過程で生まれる汚れに愛おしさを見出したのが、INPHONIKという名のディベロッパーでございます。
「RX950」とは
INPHONIK「RX950 Classic AD／DA Converter」は、AKAI「S950」（1988年リリース）のAD／DAコンバーター部分ををエミュレートした、VST／Audio Units／AAX互換のプラグイン・エフェクトです。
エミュレーション元のAKAI「S950」は、サンプリング・レート：7.5kHz～48kHz／ビット深度：12bit／最大同時発音数：8音というスペックのラック・マウント型サンプラー。先行してリリース（1986年）されていた同社「S900」とともに、オール・イン・ワン＆プロフェッショナルなコンセプトが世界中で受け、現代でも息づいている“AKAI＝サンプラー”のイメージを決定づけた歴史的銘機であります。
入り口から出口まで、すべてを再現
実機を模したプラグイン・エフェクトを使う際、毎回ちょっと立ち止まって考えてしまうのが、「どこからどこまでが再現されているのか？」という点です。例えば、“〇〇を完全再現したアナログ・フィールのフィルターを搭載”という宣伝文句ですと、フィルターの回路のみを指している場合が多く、前後の脈絡を取り去ったそのサウンドに対して「なんだか実機と違う気がする……」という感想を持つのは、ごく自然なことのように感じます。
一方で、この「RX950 Classic AD／DA Converter」は、入力端子～（→ゲイン→プレ・フィルター→A／Dコンバーター→D／Aコンバーター→ポスト・フィルター→）～出力端子をエミュレートしています！ とハッキリ明示しており、“実機ライク”を超えた“ニア実機”なサウンドを楽しむことができます。
……この辺まで徹底的にこだわりはじめると、ライン・ケーブルによる音質変化を模したプラグイン・エフェクトが欲しくなってくるのですが、そういうのは見当たらないんですよねぇ…… ちなみに、BOSSのワイヤレス・システム「WLシリーズ」には、“ケーブル・トーン・シミュレーション”と呼ばれる、高域を適度に削る機能が搭載されていたりします。
12bitの秘密
「RX950 Classic AD／DA Converter」の特徴は、なんと言っても“ビット深度：12bit”のサウンドにあります。CDのビット深度が16bit、DVDのビット深度が24bitなので、「RX950 Classic AD／DA Converter」の12bitはそれらより少々低いわけですが、では、ビット深度が低いと具体的にどのような影響が出るのでしょうか？
そもそもビット深度とは、デジタル・サウンド（PCM方式）の精度を表す数値でして、低いほど、音量の大小の表現が粗く極端になり、本来なめらかな曲線で表すべき波形であっても、蹴上の高過ぎる階段のように直線的に変形してしまいます。なめらかな曲線が階段状に変形すると、（大きな音はさほど影響を受けないのですが）小さめの音量で鳴っているハイハットが原音とかけ離れたガビガビの音になったり、音が消え入る間際にジャリジャリッというノイズのような音が紛れ込んだりします。
そうしたガビガビやジャリジャリッ（＝音の汚れ）には、たくさんの倍音が含まれているので、結果として、とても音楽的で情緒豊かなサウンドに仕上がる、というわけです。
あらゆる音楽家にオススメです
さて、使い方ですが、[INPUT GAIN]で歪ませ具合を決めて、[FILTER]で味付けをする、というのがもっともベーシックなところになるかと思います。どちらの機能も実機ではアナログ回路で構成されているため、デジタルのそれとはひと味違う独特な質感を与えてくれます。また、もともとは折返しノイズを回避するために置かれたのだろうと思しき[AUDIO BANDWIDTH]も、癖のないロー・パス・フィルターとして積極的に活用できます。
Lo-Fi Hip Hopを制作する方も、そうでない方も、とても使い勝手の良い安価なプラグイン・エフェクトなので、ぜひチェックしてみてください！
