音楽機材の“どアップ”写真が撮りたくなり、SIGMA「70mm F2.8 DG MACRO | Art」を購入しました。
以前購入した同社「85mm F1.4 DG HSM | Art」のキレッキレな描写力には、とにかく仰天させられましたが、こちらはどのような画を見せてくれるのでしょうか!
カミソリマクロの再来
SIGMA「70mm F2.8 DG MACRO | Art」は、焦点距離70mmのマクロ・レンズです(小さな虫や植物、料理などを画面いっぱいに撮影できるのが、マクロ・レンズの特徴です)。
2006年にリリースされ、そのシャープで鋭い解像力から“カミソリマクロ”と称された「MACRO 70mm F2.8 EX DG」を、現代の技術でさらに進化させた製品なのだそうで、雑誌では絶賛の嵐、ネットでの評判も上々、と来れば、いやがうえにも期待が高まるというもの!
ファースト・インプレッション
最大径×長さはφ70.8mm×131.8mm、質量は570g。これまで大艦巨砲主義的な1kg級の大口径レンズばかりを使ってきたせいか、驚くほど軽く、そして小さく感じます。さすがに、同社の「85mm F1.4 DG HSM | Art」と比べると、軽さも手伝ってか、所有欲を満たしてくれるパワーはやや弱めかもしれませんが、決して安っぽいとは感じません。十分にガッシリしています。
オート・フォーカスは、「こっち行きまーす、ハイ間違えましたー、今度はあっちでーす!」的な動きをするので、正直、超高速! とは言えませんが、撮影距離の範囲を制限できるフォーカス・リミッター機能を併用することで、「まぁ、こんなものか」と思えるくらいには調整できました(街角スナップのように、被写体が数メートル以上先にある場合は、テキパキ高速で合焦しますよ!)。
写りについては、“カミソリマクロ”の正統後継ということで、絞り開放から笑いがこみ上げるほどのキレッキレな解像力を見せつけてくれます。しかしながら、いくらなんでもピント面が薄過ぎる印象なので、手持ち撮影では、意識して少々絞り気味に使うのが良いのかな、と思いました。
屋外、手持ちで撮りました
早速、「70mm F2.8 DG MACRO | Art」をSONY「α7R III」に装着、コロナ&熱中症対策を徹底しつつ、トコトコとお散歩に出かけます。
「被写体として無難過ぎるかな」とは思いつつも、まずは、水を浴びたばかりでとっても嬉しそうな植物に近寄って撮影。等倍で確認すると、肉眼では認識できなかった産毛の一本一本までを綺麗に解像しており、葉の厚みや硬さだけでなく、モファッとした夏特有の湿度までもが伝わってくるようです。
マクロ・レンズと言えども、接写しかできないわけではございません。クセがなく使い勝手の良い70mmの中望遠レンズとしても使えます。こちらは直線と直角だらけの風景ですが、歪むことなく、シャキッと立体感豊かに切り取ることができました。
シナダレスズメガヤ(撓垂れ雀茅、Weeping lovegrass)というアフリカ原産の植物だそうです。赤紫色のちっちゃい花を咲かせていました。こうやって撮影しなければ、一生気づかなかったかもしれません。
キリッとしたピント面とトロ~リとろけたボケの、極端過ぎる共演。素晴らしいです。
セミのにぎやかなお祭りが、秋の虫たちが奏でるオーケストラへと移行をはじめた夕暮れの空。被写体が小さくても大きくても、綺麗なものを綺麗に撮る、圧巻であります。
とても黄色いマリーゴールドを見つけました。被写体に近寄って撮影していると、見るものすべてが新鮮で面白かった小学生の頃の気分に浸れます。知ったようで知れていないことが、まだまだたくさんあるのですね。
屋内、三脚で撮りました
ご近所を巡っただけで滝のような汗をかき、生命の危機を感じたので、そそくさと自宅に帰還し、BEHRINGER「RD-8」を撮影します。たくさんのライトを当てて製品写真のように撮るのではなく、自身が発光する光をメインにやや長めに露光することで、一風変わった雰囲気に仕上げてみました。
音色名([HI CONGA][CLAVES]など)の印刷のちょっとした滲みまで鮮明にとらえています。ツマミのプラスティッキーな質感表現も見事ですね。
お次は、Elektron「Analog Rytm MKII」を撮影。個々のパーツの精度が高いせいか、CGのようにも見えます。これこそまさに、見えるままを肉眼よりも素直に写し取る、ということなのでしょう。
最後に、フレイム・メイプルの杢目。大自然が織りなすダイナミックな文様を精細に描写してくれました。金属パーツのメッキの質感の違いも描き分けられています。
時間を忘れて、じっくり丁寧に撮りたくなる
しっかり丁寧に撮るとキッチリ返してくれる、SIGMAらしい真面目で実直な作りに、とても好感が持てました。マクロ・レンズ本来の、カッチリと三脚を立てて、光を作り込み、マニュアル・フォーカスでじわりじわりピントを追い込む、という“丁寧な静物撮影”を思う存分味わえそうなレンズであります!
したたり落ちる水滴を撮っていたら半日が終わっていた、そんな優雅なひとときをこのレンズとともに過ごしてみたいものです。