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「UNO Drum」は、スネア以外も一級品でした

発表時から、やたらとスネアの音色に注目が集まっていた、IK Multimedia「UNO Drum」をようやっと購入しました。同社の「UNO Synth」以上に、「この小さな筐体から、こんなスゴい音が出るのかっ!」という驚きでいっぱいです。

せっかくですので、スネアの音以外の部分もじっくり観察してまいりましょう。

アナログとデジタルのハイブリッド音源

IK Multimedia「UNO Drum」は、音源とエフェクターとシーケンサーを装備した、小型/軽量のドラム・マシンです。

音源部は、かの「TR-909」を彷彿とさせる、アナログとデジタルのハイブリッド構成になっていて、[KICK 1][KICK 2][SNARE][CH][OH][CLAP]の音色は、アナログ音源×1とデジタル音源×4の組み合わせで各々5バリエーションずつ、[RIM][TOM 1][TOM 2][COWBELL][RIDE][CYMBAL]の音色は、デジタル音源×5で各々5バリエーションずつ、本体にロードすることができます。

アナログ音源は、あらかじめそれっぽい音が出せるように、パラメータの吟味や可動域のチューニングがなされているので、“アナログ・シンセでキックの音を0から作ろう!”的な小難しさは皆無。迷うことなく自分好みの音作りを楽しめるはずです。

一方のデジタル音源は、再現性が高く破綻しにくいPCM音源となっており、すべての音色をデジタル音源にすれば、ごく一般的なプレイバック・サンプラーとして使うことができます(なお、置き換えられる波形は、IK Multimediaが用意した「UNO Drum Anthology Libraries」「UNO Drum DMX Krew Library」「UNO Drum STG Soundlabs Library」、そして工場出荷状態に戻すための「UNO Drum Factory Library」に限られています)。

スネア、やっぱりイイです!

さんざん「良い、良い」と言われているアナログ音源のスネア音色ですが、イヤ、本当に素晴らしいです。

スネアの[DECAY]ツマミには魔法がかけられているのでしょうか、左に回すと「TR-808」のスネアっぽい「ポシ」という音色に、右に回すと「TR-909」のスネアっぽい「タシィイ」という音色に、絶妙な塩梅で変化していきます。

この音色だけで、“発明”と言い切っても過言ではございません!

安定感と先進性の心地よいバランス

エフェクター部は、[COMP][DRIVE]の2つのオーディオ・エフェクター(両方ともアナログ回路)、[STUTTER][ROLL][RANDOM][SWING][HUMANIZE]の5つのパフォーマンス用MIDIエフェクターで構成されています。

リズム・トラックの定番エフェクターたちが揃っている中で、とりわけブッ飛んだ音を出せるのが、[STUTTER]です。通常は切ったり貼ったり摘んだりする必要がある“つまずいたような繰り返しサウンド”をボタン一発で得られる爽快エフェクターなのですが、ツマミを右にグイッと回し、値を大きくしておくと、ヤケクソみたいな連打にもなるため、楽曲展開時のアイコニックなフィル・インとして大いに活躍してくれそうです。

シーケンサー部は、リアルタイム・レコーディングとステップ・レコーディング(お馴染みの“TR-REC”スタイル)に対応した、最大64ステップの、オーソドックスなタイプ。

Trapで頻出する細かい3連を織り交ぜたようなビートこそ作れませんが、ステップごとに最大8つの音色パラメータを記憶させられる機能(DAWの“オートメーション”やElektronの“パラメータロック”と同義)を有しているため、タムの[TUNE]を変化させてメロディックにしてみたり、スネアの[DECAY]を変化させて強弱にメリハリをつけてみたりなど、編み出せるビートの自由度の高さ/複雑さは、ひと昔前のリズム・マシンとは比べ物になりません。この辺はさすがIK Multimedia。予算の掛けどころ、聴き映えするツボをシッカリ押さえてくるなぁ、と感心いたしました。

やっぱり優秀なエディター、だけど!

▲「UNO Drum Editor」のスタンドアローン版。左上の[DRUM]タブを選択すると、音色や音量を設定する画面になります。

「UNO Synth」における「UNO Synth Editor」と同じように、「UNO Drum」にも「UNO Drum Editor」(パソコン向けのスタンドアローン版、iOS向けのアプリ版、そして、VSTi/Audio Units/AAX互換のプラグイン版の3種類)が用意されています。

▲同じく、「UNO Drum Editor」のスタンドアローン版。左上の[PATTERN]タブを選択すると、ステップ・シーケンサーの画面になります。音色名をクリックすることで、その音色に関係するパラメータのオートメーションを入力することもできます。

便利で優秀なところも「UNO Synth Editor」と変わらず。プラグイン版「UNO Drum Editor」を使うことで、USB接続された「UNO Drum」をソフト・シンセのようにマウスで操作できたり、音色パラメータをDAWのプロジェクトに保存してトータル・リコールできたりします。

なのですが! 「UNO Synth Editor」と違い、「UNO Drum Editor」にはどうしても許せないポイントがひとつだけあります。それは、ハードとソフトとで音色の配置にまったく関連性がなく操作を迷いやすい、ということ!

「UNO Drum」本体は、上段に[TOM 1][TOM 2][RIM][COWBELL][RIDE][CYMBAL]、下段に[KICK 1][KICK 2][SNARE][CH][OH][CLAP]という配置。それに対して「UNO Drum Editor」は、左端に[KICK 1]がデーンと鎮座し、上段に[KICK 2][SNARE][CH][OH][CLAP][RIM]、下段に[TOM 1][TOM 2][COWBELL][RIDE][CYMBAL]という配置。上下が反転しているだけでなく、[RIM]の場所が微妙に異なります。私が画で記憶するタイプの人間だからなのか、とても使い勝手が悪く感じました。

デフォルトのMIDIチャンネルは10ch

最後に、DAWを使ってマスター・キーボードから「UNO Drum」を鳴らそうとした際に、ちょっと戸惑った点があったので、Tipsとして書き遺しておこうと思います。

MIDIポートは入出力とも間違っていないはずなのに音が出ない! というときは、MIDIチャンネルの設定を疑ってみてください。「UNO Drum」のデフォルトのMIDIチャンネルは10chに設定されています。

General MIDIでもないのに律儀ですよね……

追加ライブラリーがむしろ本体

ということで、普遍的/最大公約数的な機能を抜け漏れなく取り揃えつつも、要所々々に尖った毒針を隠し持つ…… そんな、感動的バランス感覚で成り立っている素敵プロダクトなので、気になった方はぜひゲットしていただきたいのですが、ゲットしたら絶対にやってほしいことがあります。それは、追加ライブラリーのインストール(=波形の置き換え)です!

▲波形の置き換えは、「UNO Drum」をUSB接続し、インストーラーを起動するだけで自動的に完了します。

いくつかある追加ライブラリーの中で特にオススメしたいのが、「UNO Drum Anthology Libraries」。10種類のライブラリーに、古今東西40機種ものドラム・マシンのサウンドが収められており、「UNO Drum」が紡ぎ出すビートを“伝説の音”に変えてしまうことができます。

Rolandの前身Ace Toneのリズム・マシン、“リズム発生器”と名付けられたキワモノPanasonic「RD-9844」、手が届かなかったSimmonsやJomox、王道の「CR-78」「TR-606」「TR-808」「TR-909」などなど、名前を挙げるだけでワクワクするサウンドが満載なのであります!

スネア専用音源だなんてとんでもない!
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