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「KOMPLETE 13 ULTIMATE Collector’s Edition」レビュー

恒例のNative Instrumentsお布施大会がはじまりました。素晴らしいプロダクトを創りあげる企業には、価値あるその事業を末永く継続していただきたいものです。普段は新製品をポンポンと買わないため、たいへん恐縮ではありますが、せめてこのお布施大会のビッグ・ウェーブに乗ることで、罪滅ぼしをできればと思っております。

新規追加プラグインの一覧

Native Instruments「KOMPLETE 13 ULTIMATE Collector's Edition」を購入しました。「KOMPLETE 12 ULTIMATE Collector's Edition」から「KOMPLETE 13 ULTIMATE Collector's Edition」へのアップデートによって新規に追加されたプラグインは、下記のとおりです。

新しく追加されたプラグイン

  • 「STRADIVARI VIOLIN」(「CREMONA QUARTET」)
  • 「GUARNERI VIOLIN」(「CREMONA QUARTET」)
  • 「AMATI VIOLA」(「CREMONA QUARTET」)
  • 「STRADIVARI CELLO」(「CREMONA QUARTET」)
  • 「ARKHIS」
  • 「GUITAR RIG 6 PRO」
  • 「SUPER 8」
  • 「NOIRE」
  • 「SESSION GUITARIST - ELECTRIC SUNBURST」
  • 「SESSION GUITARIST - PICKED ACOUSTIC」
  • 「CLOUD SUPPLY」(「PLAY SERIES ADDITIONS」)
  • 「LO-FI GLOW」(「PLAY SERIES ADDITIONS」)
  • 「MODULAR ICONS」(「PLAY SERIES ADDITIONS」)
  • 「BUTCH VIG DRUMS」(「PLAY SERIES ADDITIONS」)
  • 「MALLET FLUX」
  • 「MYSTERIA」
  • 「STRAYLIGHT」
  • 「PHARLIGHT」
  • 「RAUM」
  • 最新「Expansions」×23

追加分だけでもかなりの物量ですが(ダウンロード~インストールに丸一日かかりました)、ひとつずつ順番に見てまいりましょう!

「CREMONA QUARTET」

「STRADIVARI VIOLIN」

「STRADIVARI VIOLIN」は、“ストラディバリウス”の名で知られる世界的銘器の中でも特に、クレモナ・ヴァイオリン博物館に収蔵されている“Vesuvius”と名付けられた個体をサンプリングして作られたヴァイオリン音源です。ヴァイオリンの表現力は数あるアコースティック楽器の中でも群を抜いているため、メーカーが音源を緻密に作り込めば作り込むほど、「このパッチはフォルテ/フォルテシモのみを収録しています、ピアノ/ピアニッシモはエクストラ・パッチをご購入ください」とか「このメーカーはキースイッチでアーティキュレーションを切り替えるけど、あのメーカーはアーティキュレーション別にパッチが組まれている」とか「我々の新製品は、まったく新しいGUIでキースイッチやパッチ切り替えからあなたを解放します!(嗚呼、また覚えることがひとつ増える……)」という感じで使い分けがひたすら複雑化し、ユーザー側の金銭的/作業的負担が増える一方でした(つまり「じゃあ、生で録りましょうか」が発動し、音源の相対的な価値が下がるわけです)。

その点、この「STRADIVARI VIOLIN」は、これさえ立ち上げれば必要十分な音が手に入る、という意味で、たいへん優れた音源なのではなかろうか、と思います。操作法もお馴染みのキースイッチ方式ですし、2つの鍵盤をほぼ同時に打鍵すると和音、若干ズラすとレガートいった感じでザックリ使えるのも逆に良いです。また、ビブラートのかかり具合だけではなくスピードをも変化させられるのは、オーケストラ派/ポップス派の両者にとって大歓迎の進化でしょう。

「STRADIVARI VIOLIN」を含む「CREMONA QUARTET」全般に対して、あえて挙げる難点は、ひとつだけ。ロング・トーンでの弓の返しタイミングがサンプル任せ(タイミングそのものは全音階で揃っていますが、音楽的な表現とは無関係)なので、静かなバラードだと悪目立ちしそうな予感がします……

「GUARNERI VIOLIN」

「GUARNERI VIOLIN」は、ストラディバリと双璧をなす名工バルトロメオ・ジュゼッペ・“デル・ジェズ”・アントーニオ・グァルネリが制作したヴァイオリンをサンプリングして作られた音源です。「STRADIVARI VIOLIN」と比べて、ほんの少しだけ線が細い印象を受けました(=繊細な表現に向いている、と思います)。

全然余談ですが、ストラディバリウスとグァルネリウスが並ぶと、メタル・バンドを思い出しちゃうのは、私だけではないでしょう。

「AMATI VIOLA」

「AMATI VIOLA」は、現代まで受け継がれているヴァイオリン属楽器の原型を完成させたアンドレア・アマティが制作したヴィオラをサンプリングして作られた音源です。

ヴィオラは、人間の声域にもっとも近い楽器であるうえ、「イ~」という音がするので、歌詞がある歌モノ楽曲の裏で鳴らすときには毎度とても気を遣うのですが、この「AMATI VIOLA」は、艷やかで伸びがあり「ルゥ~」という(ヴァイオリンに近い)音になりやすいため、たいへん使いやすいです。

「STRADIVARI CELLO」

「STRADIVARI CELLO」は、ストラディバリによって制作され、イタリアの国宝に認定されたチェロをサンプリングして作られた音源です。

「CREMONA QUARTET」のすべてにも言えることがですが、「STRADIVARI CELLO」は特に、歴史の重みを感じる“枯れ感”が凄いです。長い年月をかけて、弦と木材が互いに勝手知ったる仲となり、舞踏会で優雅なステップを踏むように共鳴し合う…… e-instrumentsの丁寧な仕事あってこその音源でありましょう。

「ARKHIS」

「ARKHIS」は、映像の抑揚/心理描写に同期させて音楽を紡ぐ手法“フィルム・スコアリング”に寄せて作られた音源です。ある程度の雰囲気が出来上がっているオーディオ・ソースを3つレイヤーして、オリジナルの音色を構築します。リリース前に発表された公式の紹介動画では、制限が多そうな(オリジナリティを出しづらそうな)ネガティブな印象を受けたのですが、実際に使ってみると、鍵盤で普通に演奏できますし(「ACTION STRINGS」のような自動演奏系ではない!)、テンションの上げ下げはもとより楽器の抜き差しなんかも、CC#1/#2だけで感覚的に指定できるため、思いの外、自由度の高い音源でした。Spectrasonics「Omnisphere」の、シネマティック・サウンドだけを集めたようなイメージ、というと伝わりやすいでしょうか。

バンド・インする前のME(ミュージック・エフェクト)を作ったり、大きな労力をかけずに映像に壮大な音をつけたりするのには、もってこいだと思います。

「GUITAR RIG 6 PRO」

「GUITAR RIG 6 PRO」は、マルチ・エフェクターとアンプ・シミュレーターが一体になった、バーチャル・スタジオです。「~3」の頃までは、音質的にもアドバンテージがあり、面白がってよく使っていましたが、最近ではめっきり使うことがなくなりました。ギターのアンプ・シミュレーターという意味では、他社製品と比べて完全に置いてけぼりになっている、と思います。

公式サイトの紹介文にあるとおり、

独自のシグナルチェーンをデザインして音色をカスタマイズし、ギター、ベース、ストリングス、ドラム、シンセなど、あらゆるものにリバーブ感や暖かみ、個性を加えましょう。

あまりギターにこだわらず、“エフェクターのごった煮”として使うのが正しい供養なのでは、と思います。

「SUPER 8」

「SUPER 8」は、ビンテージ系ポリフォニック・シンセサイザーをイメージした音源です。

何故この製品を作るに至ったのか、理解に苦しみます。

「NOIRE」

「NOIRE」は、ピアニストNils Frahmさん所有のグランド・ピアノを丹念にサンプリングして作られたピアノ音源です。Native Instrumentsの既存のピアノ音源は正直どれもオケ中に混ぜて使いづらい印象を持っておりまして、つい立ち上げることさえ避けてしまっていましたが、本製品に限っては、サウンド・デザインが圧倒的に“2020年”な感じで、好みです。

単なるピアノ音源としても気持ちの良い音だと思いますが、真骨頂は“パーティクル”と呼ばれるピアノ音の断片/粒子を飛ばせる点にあるでしょう。シンセっぽくなり過ぎることなく、幻想的できらびやかな世界観を作り上げられます。

リリースの際に何度も買おうか迷った製品なので、今こうして使えることが、とても喜ばしい!!

「SESSION GUITARIST - ELECTRIC SUNBURST」

「SESSION GUITARIST - ELECTRIC SUNBURST」は、コードを押さえるだけで本格的なエレクトリック・ギター・サウンドを奏でてくれる自動演奏系の音源です。これまでの「SESSION GUITARIST」シリーズと比べて、エフェクターの設定をより詳細まで詰められたり、単音の打ち込みができたりと、ユーザーが介入可能な要素が増えています。

クリーンのアルペジオはツルッと使ってしまいそうな魅力を持っていますが、さすがに歪みはインチキ臭い音しかしないので、自分で弾いちゃうと思います。

「SESSION GUITARIST - PICKED ACOUSTIC」

「SESSION GUITARIST - PICKED ACOUSTIC」は、コードを押さえるだけで本格的なスチール弦アコースティック・ギター・サウンドを奏でてくれる自動演奏系の音源です。ハーモニクス(フラジオレット)の音が透明感があって、とりわけ素敵です。

エレキは自分で弾いちゃう方が手っ取り早いことが多いですけれども、アコギはマイク/マイク・プリアンプ/録音場所などギター以外の準備がたいへんですから、こういった音源の使用頻度が必然的に高まります。

「PLAY SERIES ADDITIONS」

「CLOUD SUPPLY」

「CLOUD SUPPLY」は、トラップ、ヒップ・ホップ、R&Bなどのトラック制作に重宝しそうな、気だるいサウンドが満載の音源です。

この「CLOUD SUPPLY」を含めた「PLAY SERIES」の音源たちは、シンセサイザーとして音をこねくり回すためではなく、Roland「JV-1080」のエクスパンション・ボード(「SR-JV80」シリーズ)のように、プリセットをバンバン使い潰していくイメージで作られたのではなかろうかと思います。

「LO-FI GLOW」

「LO-FI GLOW」は、さまざまなローファイ・サウンドをモチーフとした音源で、絶賛流行中のカセット・テープ的なテクスチャのサウンドがたくさん収録されています。強烈なインパクトのプリセットは“早い者勝ち”ですぞ(この辺の感覚そのものが、80年代~90年代初頭っぽい)!

ちなみに、こういう音を鳴らしたくて、TASCAMのカセットMTRを探しているのですが、なかなか見つかりません。できれば、音源じゃなくてカセットMTRのモデリングをしたエフェクターを作っていただきたいです……

「MODULAR ICONS」

「MODULAR ICONS」は、ビンテージ・モジュラー・シンセサイザーの中でも特に、重要文化財クラスの価値を持つ個体をサンプリングして作られた音源です。サンプル・プレイバックなので劇的な音色の変更は望めません(パラメータも上手に間引きされています)が、ジュワッと広がるフィルター・エンベロープや弾けるように立ち上がるトランジェントなど、全体に漂う“電気が空気を揺らしている感”みたいなものは、現状のバーチャル・アナログ・シンセサイザーでは絶対に再現できないサウンドです。

「BUTCH VIG DRUMS」

「BUTCH VIG DRUMS」は、ヘヴィでドスの利いたドラム音源+グルーヴ集です。まさにGarbageを彷彿とさせるダーティーなサウンドやグルーヴは、良い意味で今っぽさの欠片もない、カウンター・カルチャー的な内容になっています。

「MALLET FLUX」

「MALLET FLUX」は、グロッケンシュピール/チェレスタ/シロフォン/ビブラフォン/マリンバのサウンドが収録されている、鍵盤打楽器専門の音源です。優秀なアルペジエイターを搭載しており、コードを弾くとイイ感じに演奏してくれるのが大きな特徴です。

生系のマレット楽器の音色は、使いたい機会はめちゃくちゃ多いのに、なんとなく決め手に欠ける音源が多く、場合によってはデジタルなサウンドに差し替えてしまった方がまとまりが出て聴きやすい場合も少なくないので、リリース当初からとても楽しみにしていました(なのに発売直後には買わないという……)。

収録現場の響き(共鳴)に引っ張られて生じる倍音の偏りも少なく、一聴して質の高さが伝わるサウンドが揃っています。ただどうしても「REAKTOR」感が出る、というか、もうほんの少しだけ高音にヌケ感があれば……

なお、生系のマレット楽器を高速アルペジエイターでブン回すとやたら気持ち良い、という新鮮な発見がありましたので、皆さまにおかれましてもぜひお試しいただければ、と思います!

「MYSTERIA」

「MYSTERIA」は、大規模な混声合唱団による、神秘と狂気の狭間のような歌声やクラスター・トーンが収められた、ミステリアスなコーラス音源です。画面中心に配されたパッドのX軸(左右)で音色のモーフィングを、Y軸(上下)で感情の強度のコントロールを行ないます。鍵盤はON/OFFスイッチの機能のみとなり、メロディを演奏することはできません。

この手の音源はほぼ必ず“ゲームのBGM制作に最適”と謳われますが、こんなにおっかないサウンドを必要とするゲーム開発に携わったことが一度もないので、今のところ、宝の持ち腐れであります……

「STRAYLIGHT」

「STRAYLIGHT」は、グラニュラー・シンセシスに特化したシネマティック音源です。従来のPCM音源のようにオーディオ・ソースの時間軸や音程に左右されることなく、再生/持続タイミング&音程を変幻自在に操れるため、映像とのシビアな同期に適してます。

近年のハリウッド映画で頻出する「ブボボボボワアァァッ!」という低音のブラス・サウンド(“メガ・ホーン”などと呼ばれる音色)とグラニュラー・シンセシス独特のブチブチ/ビリビリ感とが、すこぶる相性バツグンでして、いっそ“メガ・ホーン専用音源”と考えてしまっても良いのでは、と思います。

「PHARLIGHT」

「PHARLIGHT」は、人間の声をグラニュラー・シンセシスで加工して作られた音源です。「STRAYLIGHT」と同じく、オーディオ・ソースの時間軸や音程に左右されることなく、再生/持続タイミング&音程を変幻自在に操ることができます。

プリセットはとてもバラエティ豊かで、一聴して「人間の声だ!」と分かる音色はさほど多くないにもかかわらず、強制的に耳が持っていかれる(注意を惹く)感覚が強いところは、さすが人間の声由来だなぁ、と感じます。

「RAUM」

「RAUM」は、「GROUNDED」「AIRY」「COSMIC」という、3つのモードを搭載しているリバーブです。

どうやら、[Predelay]と[Feedback]のパラメータが、文字通りのプリ・ディレイとフィードバックではないようで、「GROUNDED」モードではFMっぽい金属的な響きを、「AIRY」モードではガラスのような透明な響きを、「COSMIC」ではディレイのようなギュワワーンという響きを付加するはたらきをそれぞれ担っています。加えて、雪の結晶マークをクリックすることで、リバーブ成分を“フリーズ”させることも。まさに“シンセサイズできちゃうリバーブ”と考えて差し支えないのでは、と思います。

さて、当たり前といえば当たり前なのですが、Native Instrumentsのシンセやエフェクターは、すべて「REAKTOR」で作られています。ですので、どの製品も基本的には、なんとなく湿り気のある曇ったような、「REAKTOR」らしいサウンドになります。

しかしながら、この「RAUM」だけは、スカッとした快晴の青空のようでありつつも、乳脂肪分10.0%オーバーのソフト・クリームばりに濃密で、かなり異色な音質に仕上がっています。昨年末に無料で配布されたときから、第一線でバリバリ使いまくっております。ありがとうございます!

買って損なし!

ということで、「KOMPLETE 12 ULTIMATE Collector's Edition」から「KOMPLETE 13 ULTIMATE Collector's Edition」へのアップデートによって新規に追加されたプラグインをひととおり見てまいりました。

これだけ物量があると、好き/嫌い、よく使う/全然使わないの差は出てくるでしょうが、武士の刀のようなもので、“買わないという選択肢はない”製品なのではないでしょうか!

一回買ってしまえば、アップデートはかなりお安いです
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