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「4FX Bundle」で、音の世界を平面から解き放て!

作曲や編曲は、音符的な側面からアプローチするのが普通だと思うのですが、音響的な側面からのアプローチにも目を向けてみると、音楽が秘めているひと味違った魅力に気づかされるかもしれません。今回は、そんな感じのお話であります。

[Spatial + Panner]、お使いですか?

VSTで定義されているカテゴリのひとつに、[Spatial + Panner]というものがあります。言葉のとおり、音が鳴る空間(音場)をあれこれ操作することを目的としたエフェクトたちのためのカテゴリなのですが、一般的には、使用頻度が低めな“福神漬け的位置づけ”にあることだろうと思います。

しかしながら、プロフェッショナルの現場では一転して、日々フル稼働で用いられている&研究されている最重要カテゴリのひとつでありまして、ゲームやアトラクションにおける“空間を誤認/錯覚させるための音場演出”や、ポップスのミックス工程における“膨大な音数の楽器たちを綺麗に響かせるための定位拡張”など、活用されている事例は枚挙に暇がありません(さらに、そこにアカデミックな要素が絡んでくると、それらに見出される価値や必要性は指数関数的に高まります!)。

……ではなぜ、このような現象が起こるのでしょうか? プロフェッショナルたちはDAWの(デフォルトの)パンポット機能の、何が不満なのでしょうか?

それは、DAWの(デフォルトの)パンポット機能が、スピーカーごとの音量を増減しているだけだから、にほかなりません。スピーカーごとの音量の増減で実現できるのは、スピーカー間の平面に音を並べることくらいで、スピーカーの外側に音を配置することや、リスナーの後ろ側に音を配置することはできません。コンプレッサーやリバーブを併用して奥行きに深みを感じさせることは不可能ではありませんが、「劇的な効果を得られるか?」と問われたならば少々言葉に詰まってしまうところです。そういう意味で、DAWの(デフォルトの)パンポット機能のみを使って音場を形成することは、ごく狭い範囲でしか音を活躍させてあげられない、もしくは、再生環境に著しく依存するサウンドにならざるを得ない、と言えます。

故に、音をスピーカー間の平面から解放し、より広いフィールド(スピーカーの外側やリスナーの後ろ側はもちろん、上下にも!)で活躍させんがため、音量の増減だけでは絶対に実現できない魔法のような効果(位相が云々、距離減衰が云々、初期反射が云々といった音響工学的な小難しい計算の結果)を与えてくれる[Spatial + Panner]系のエフェクトたちがことさら重要になってくる、というわけなのです。

とはいえ、[Spatial + Panner]系のエフェクトに、あまり良い印象を持っていなかったりしませんか? それ、すごくわかります! 確かに10年ほど前までは、いたずらに位相を狂わせてしまうエフェクトばかりで、まさに“飛び道具”でしかありませんでした。しかし近年は研究が進み、コンピュータの高性能化も相まって、非常に高い精度で音場を操作/演出できるようになっています。かく言う私自身、仕事では言わずもがな、プライベートの制作でも、ステレオ・イメージの操作にはLeapwing Audio「STAGEONE」、定位感の拡張にはGoodhertz「Panpot」、奥行きの操作にはTokyo Dawn Records「Proximity」、音楽的な響きの音場を作りたいときはVIENNA「MIR PRO」をそれぞれ活用することで、“音を配置できるスペース”を拡張し、そのポテンシャルを最大化できるよう努力しております。(一部、VSTのカテゴリでは[Spatial + Panner]に属していないプラグインも混ざっていますが、はたらきは[Spatial + Panner]そのものです)。

「4FX Bundle」とは

さて、前置きがやたら長くなってしまいましたが…… Sound Particles「4FX Bundle」は、ハリウッドでの採用実績を多数持つ同社の独自技術を転用/応用して開発された、VST/Audio Units/AAX互換のプラグイン・エフェクト集です。

含まれているエフェクトは、音圧で定位を操作する「Energy Panner」、周波数で定位を操作する「Brightness Panner」、音の距離減衰を物理法則に従ってシミュレートする「Air」、音の移動を物理法則に従ってシミュレートする「Doppler」の4種類。どれも、音を平面から解き放ってくれる、[Spatial + Panner]なエフェクトたちです。

各エフェクト解説

ここからは、個々のプロダクトを詳しく見てまいりましょう。

「Energy Panner」

「Energy Panner」は、音圧で定位を操作するエフェクトです。シンセサイザーの鍵盤を強く打鍵したときだけステレオ感が増す、とか、ベロシティの強弱に追従して音がグルグル回る、といった効果が期待できます。また、サイド・チェインに対応していますので、キックが鳴るときにだけパーカッションをセンターから逃がす、なんてトリッキーな使い方も可能です。

ちなみに、音の距離感を前後させたり、リスナーの後ろ側へ音を定位させたりする能力もないわけではないのですが、真骨頂は、音圧とリンクした有機的な定位の移動感にあります(留まらせ過ぎるとボロが出る、とも言えますね……)。ですから、「うぉ~!? 2chなのに音が後ろから聴こえる、スゴ~い!」みたいな、アトラクション的感動はやや薄めです。あしからず。

「Brightness Panner」

「Brightness Panner」は、周波数で定位を操作するエフェクトです。低い音ほど中央に定位させ高い音ほどステレオ感を強める、とか、ピッチの上昇に同調して定位の回転速度を上げる、といった効果が期待できます。また、効果を発揮する範囲を周波数でグラデーションさせるだけなく、音程単位でカッチリ区切ることもできるので、中低音の伴奏は定位を固定し、高音のオブリガードにだけピンポイントで変調を加える、というような、演奏に寄り添わせた使い方も可能です。

上記の効果を、パンポットやリバーブやコンプレッサーのオートメーションで実現しようとすると軽く数日を要する(しかも、やりがいのない)作業になるでしょう。本エフェクトは、高いリアルタイム性を有していることこそが大きなアドバンテージだと思います。

ところで、前述の「Energy Panner」と、この「Brightness Panner」、どちらも挿したチャンネルの種類からスピーカーの数を自動判別して出力を最適化してくれるうえに、あらゆる設定をコピー&ペーストで引き継げる、という神仕様になっています(つまり、効率的なダウン・ミックスが可能、というわけですな!)。こうした細かい配慮に、現場での実績を積んできた重みが強く感じられます。

「Air」

「Air」は、距離減衰(音源が遠くになるほどこもる現象)を物理法則に従ってシミュレートするエフェクトです。アコースティック系音源のマイキング・ポジションが気に食わないとき(特に、もっと後ろに下げたい場合)、とか、ライブ・レコーディング的なサウンド効果を狙いたいときに活躍してくれます。

私は、フィールド・レコーディングした環境音の距離感を調整するのによくお世話になっています。音を遠くするほどステレオ感も狭まってしまうエフェクターが多い中、ステレオ感をしっかり維持しながら遠くなってくれるところがありがたいです。

「Doppler」

「Doppler」は、音の移動を物理法則に従ってシミュレートするエフェクトです。音の移動速度([Source Speed])と、その音がリスナーの目の前を通過する瞬間のタイミング([Time to Peak])を指定するだけで、救急車のサイレンでおなじみの“ドップラー効果”を再現できます。ピークのタイミングを指定する際、真面目にタイムコードを打ち込んでも良いのですが、映像を見ながら(もしくは、音を流しながら)「ここぞ!」というタイミングで右下の[Now]ボタンを押下する方が100倍楽しいでしょう。「Now、って!」と思わずツッコんでしまいたくなりますが、素晴らしく便利な機能です!

音場を操作するテクノロジーが今熱い!

いかでしたでしょうか、Sound Particles「4FX Bundle」のご紹介でした。

2015年以降のVR/AR/MRの爆発的普及に伴って、“自然現象を解析して再現性を持たせる研究や技術”が一気に飛躍し、身近なものとなりました。音の分野とて例外ではなく、直近ではSONYの「360 Reality Audio」など、より手軽に、よりリアルに音空間を演出できる技術がどんどんと産声をあげる、またとないエキサイティングな時代を迎えています。

ぜひ、「4FX Bundle」に限らず、さまざまな[Spatial + Panner]系エフェクトを楽しんでいただければ幸いでございます!

部屋中を最高の音で満たしてくれる次世代スピーカー!
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