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金箔が貼られていることよりも、金箔を貼ろうした努力に感動する

Dyson「Supersonic Ionic(ブルー/ゴールド)」が、届きました。

「Supersonic Ionic」は、“吸引力の変わらない、ただひとつの掃除機”でお馴染みの、Dysonが生み出したヘア・ドライヤーです。一般的なドライヤーとはひと味もふた味も違うミニマルなデザインはもとより、掃除機屋さんがドライヤー!? ということで、たいへん興味を持ちました。さて、どのようなプロダクトなのでしょうか。

Dysonは、何故ドライヤーを作ったのか

Dysonは、ご存知のとおり、紙パックのいらないサイクロン式掃除機の躍進で大きくなった会社です。しかし近年では、掃除機に搭載されているデジタル・モーターの技術と、空気の流れを操るための流体力学のノウハウをコア・コンピタンスとして、さまざまな分野に横展開をしているようです。

Dysonの主な横展開

  • 掃除機の空気の流れを逆転させる → ハンド・ドライヤー(エア・タオル)
  • 掃除機の空気の流れを逆転させる → 扇風機
  • ハンド・ドライヤーにヒーターを搭載する → ヘア・ドライヤー
  • 扇風機にヒーターを搭載する → ファン・ヒーター
  • 扇風機に加湿機能とエア・フィルターを搭載する → 加湿空気清浄機

上記のほか、モーターつながりで、洗濯機の販売/電気自動車の開発にも手を出したことがあったそうですが、これらはあえなく撤退となっております。

ちょうど、Braunが電気シェーバーの往復駆動機構を応用して電動歯ブラシを作ったり、YAMAHAがピアノの木工技術を応用して家具や航空機を作ったりしたのと同じですね。

つまり「Supersonic Ionic」は、掃除機屋さんが片手間で多角経営に乗り出したわけではなく、高性能なモーターを有し、空気の流れを知り尽くしているDysonならではの、“作られるべくして作られたプロダクトである”ということが言えるのかもしれません。

では、本当にそのとおりなのか、なんだかんだで副業的な小銭稼ぎなのか、多面的に観察してまいりましょう。

どこまでも洗練されたミニマル・デザイン

▲一般的なドライヤーは拳銃のようなスタイルで使いますが、「Supersonic Ionic」は打ち出の小槌のようなスタイルで使います。

外見上、もっとも目を引くのが、真ん中にポッカリ空いた穴。普通のドライヤーにあるはずの、羽や網が見当たりません。にもかかわらず、穴からすごい勢いで風が出てくるため、キツネにつままれたような心持ちになります。

これは、「Air Multiplierテクノロジー」と呼ばれている、同社の扇風機ではじめて用いられた特許技術で、持ち手下部に仕込まれているデジタル・モーター「V9」によって吸い上げられた空気が、本体内部をとおって、穴の外周に薄く開けられた隙間から放出されているのです。

この、まるで手品のような仕組みは「なんだ、そういうことかぁ!」と思わされるだけではなく、取り込んだ空気の風圧を3倍に増幅して吐き出すことができるという、優れた機能性をも併せ持っています(原理的には、庭に水を撒くとき、ホースの先っちょをつまんでビャーッとやる、アレですね)。

外見と機能が密接に絡み合っている製品に、さらにミニマルな味付けをすると、これほどまでに存在意義が磨き上げられ際立つのか……と頭を殴られたような衝撃を受けました。生半可な意気込みでは、このデザインに辿り着くことはなかったでしょう。

サウンド・インプレッション

ゲーム・サウンドを生業にする者として、「Supersonic Ionic」の騒音に触れないわけにはいかないでしょう。

シュゴゴーーッ!! というヘア・ドライヤー特有の騒音の主たる原因は、ローターの回転運動を、羽根車(インペラー)が空気を動かす力に換える際に発生する“風切り音”です。

前述のとおり、「Supersonic Ionic」には、シンガポールの自社工場で開発/製造されているデジタル・モーター「V9」が搭載されていますが、その「V9」は風切り音対策として、ひとつ前の世代の「V8」では11枚だった羽根車のブレードを、2枚増やし13枚としました。そうすることで、風切り音が全体的に高音にシフトするため、ある程度を人間の可聴域外に追いやってしまうことができたのです。

もっとも、高音に“追いやった”だけですから、コウモリやイルカに聴かせたならば「トテモウルサイデスヨ」という評価を下すのかもしれませんが、私は人間ですので「日本の住環境に適した、うるさくないドライヤーである」と感じました。特に、3段階中2段階目の「レギュラードライ・モード」では、グッと小さい騒音で、かなりの風圧を得られます。

初期のサイクロン式掃除機が轟音を撒き散らしていたことから、Dysonはうるさい! という先入観を持っていましたが、その考えを改めるときが来たようです。

チャレンジングなスピリットこそが特別

▲面取り加工がキリッとしていて、金箔と同じくらい美しい!

さて、ここからは「Supersonic Ionic(ブルー/ゴールド)」にスポット・ライトを当てて見ていきます。

「Supersonic Ionic(ブルー/ゴールド)」は、「Supersonic Ionic」のカラー・バリエーションのひとつではあるのですが、「フェイス」と呼ばれるブラック・ホールの概念図のようなパーツに、ほぼ純金の金箔コーティングが施されている、特別バージョンになります。

金沢市出身の私は、金箔をあしらった製品に対して人一倍厳しい目を持っている(根拠のない)自信があるのですが、平らな面はもちろんのこと、ボロが出やすいエッジまで手を抜かず美しく処理しているなぁ、という印象を受けました。あえてトップ・コートを塗らず、金箔にダイレクトに触れられるようにしているのも素敵です。一方の鮮やかなブルーの部分も、ヌメッと指に吸い付くようなラグジュアリーな感触で、金箔のインパクトに全然負けていません(写真だけでは、ちょっとわかりにくいかもしれませんが、クセになる感触です!)。

金箔が貼られているだけで物的な特別感は十分ですが、自社エンジニアを金箔職人の研修に行かせたり、金箔コーティングの下地をわざわざ伝統的な赤色にしたり、下地に接着剤を噴霧するためだけのロボット・アームを新規設計したりなど、カラバリの範疇に収まらない、コスト度外視のブッ飛んだ仕様が随所に盛り込まれていて、Dysonの“ものづくり”を追求するチャレンジングなスピリットが特に強く感じられること、それこそが、真の特別感なのかな、と思いました。

金箔が貼られていることよりも、金箔を貼ろうした努力に感動する、というか。

▲「Supersonic Ionic(ブルー/ゴールド)」には、下地色(赤色)と同色の収納ボックスが付属します。これがまた上質でございます。

ところで、金箔コーティングされた製品を突如発売したのには何か理由があるのかな、と調べましたところ、2018年9月14日のニュース・リリースに以下の一節を発見しました。

ジェームズ ダイソンは次のように述べています。「金は最も劣化しづらい材料のひとつです。よって、何世紀にも渡り、数々の装飾、彫刻、建築等に用いられてきました。私は、金の物質的な特性に魅せられています。私達が誇りを持って取り組むエンジニアリングと同様に、ゴールドコーティングの工程は、極めて繊細な職人技能の代表例と言えます。」

掃除機ではなく、扇風機でもなく、「Supersonic Ionic」にあしらわれた金は、陳腐化することなく永く愛用してもらえる、本質的なものづくりができた! という自負の現れなのかもしれません。

果たして今後、金箔コーティングの横展開はあるのでしょうか…!?

いくつかのイマイチなところ

大絶賛ばかりも気持ち悪いので、いくつかイマイチなところを挙げて、レビューの中立性を高めてみようと思います。

1点目。ここまでデザインにこだわり抜いているのに、ヘッドの底側にとても目立つ謎のパーティング・ラインがあります。実用性にはまったく影響ありませんが、いったん気にしてしまうと、無限に気になってしまいます! なくしてほしいです!

2点目。風圧最強の「スピードドライ・モード」に設定した際、髪に当てる角度をちょっと間違えると、あまりの風圧に鼓膜が破れそうになります。これは使う側の慣れの問題でもありますが、助けてください!

以上です!

ドライヤーとDysonと私

思えば、私とDysonとの出会いは最悪でした。

15年ほど前、はじめてお目にかかったサイクロン式掃除機は、轟音を撒き散らすだけでなく、銀色に安っぽくテカるウェルド・ラインまみれのABS樹脂を使いまくっていて、とてつもなくブサイクに映りました。

しかも、偶然、その個体がエヴァンゲリオン初号機のバッタもんみたいなカラーリングだったことが災いし、私の中の嫌悪感は怒りへと変わっていったのです(碇だけに、ってやかましいわ!)。そして私は、初見にして「こんなインチキ会社の製品は、未来永劫購入しない!」と心のシャッターを閉ざしてしまったのです。

ガラガラガラ……ピシャ!

時は流れ、2020年。今こうしてMy 1st Dyson製品で髪を乾かした私は思うのです。

Dysonのドライヤーは素晴らしい。こんなの片手間じゃ作れないぞ、と!

髪を乾かすたびに感動が吹き荒れる!
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