sound

シンセ好きこそ知っておきたい「UNO Synth」

「UNO Synth」というアナログ・シンセサイザーがあります。Webでも雑誌でも大々的にプロモーションをしていたので、シンセ好きならば「あぁ、あの黒くて小さいアナログ・シンセでしょ? IK Multimediaの」というくらいの情報はお持ちなのではないか、と思います。

それで間違いはないのですが、しかし、自身で実際に使ってみて「それだけではモッタイナイ、もう少しだけその情報に肉付けをしていただきたい」、そう切に思うのであります。

ちゃんとしたアナログ・シンセサイザー

IK Multimedia「UNO Synth」は、最大同時発音数1音(モノフォニック)のフル・アナログ・シンセサイザーです。

コンビニ弁当のパッケージよりもちょうどひと回り小さいくらいの、かなりコンパクトな筐体の中に、独立2系統のオシレーター&ノイズ・ジェネレーター/3タイプのフィルター/ディレイ・エフェクトといった、ハイエンド・アナログ・シンセサイザーに肉薄する機能が詰め込まれており、見た目とは裏腹に、かなり筋肉質でまっとうなアナログ・シンセサイザーに仕上がっております。

中でも特筆すべきは、独立2系統のオシレーター&ノイズ・ジェネレーター。1オシレーターか、もしくは、ほとんどエディットできないサブ・オシレーターを積んでお茶を濁すシンセが多い中、この価格帯では通常ありえない豪勢な仕様だと思います(さすがにクロス・モジュレーションはできません)。

その充実した仕様が示すとおり、出せる音色の幅は広く、苦しそうに鳴る低音がグッと来るベース音、なめらかで躍動感のあるリード音、シンセサイザーの真骨頂であるシーケンス・フレーズ音、ノイズとエンベロープを活用したスウィープ効果音など、アナログ・シンセサイザーらしいサウンドをひととおり網羅できてしまいます。この辺が、他のガジェット・シンセ(=やたら値段が高い玩具)とは大きく違うポイントでしょう。

さらに、DAWを併用して1音ずつ何度も録音すれば、極上パッド音も作れちゃう、恐ろしいポテンシャルを秘めていたりもします。

音の傾向としては、全体的にハリのないベチャッとした印象を受けますが、これは決して悪口ではなく、楽曲中での混ざりも良いですし、個人的に大好きな質感です! もちろん、艶のある金属的なサウンドや、炭酸のようなシュワシュワ感のあるサウンドも出せないことはありません。

エディターがひたすら優秀

▲「UNO Synth Editor」のスタンドアローン版。オシレーターとエンベロープのグラフィックが、ツマミ操作に追従して変化してくれます。

実は「UNO Synth」には、本体からはアクセスできない“隠しパラメータ”がいくつかあります(「ファームウェア1.1.1」でエンベロープ周りのアクセスは解消されましたが、まだモジュレーション・ホイール設定などは本体からアクセスできません)。そうした部分の編集を可能にしてくれるのが、「UNO Synth Editor」というエディターです。

「UNO Synth Editor」は、パソコン向けのスタンドアローン版、iOS向けのアプリ版、そして、VSTi/Audio Units/AAX互換のプラグイン版の3種類が用意されています。プラグイン版「UNO Synth Editor」を使えば、USB接続された「UNO Synth」をソフト・シンセのようにマウスで操作できるだけでなく、音色パラメータをDAWのプロジェクトに保存してトータル・リコールすることもできますので、“アナログならではの面倒事”から開放され、劇的に作業効率がアップします(なお、音の信号はUSBから出力されませんので、別途オーディオ・ケーブルでオーディオ・インターフェイスと接続する必要があります)。

「UNO Synth」を“シンプル”と形容する方もいらっしゃいますが(無論、それはこのプロダクトのひとつの側面ではあります)、「UNO Synth Editor」とタッグを組んだ「UNO Synth」は、ソフトとハードを股にかける縦横無尽なシンセサイザーへと変貌を遂げるのです!

アダプターを捨てよ、リビングへ行こう

常々、リビングでも遊べるポータブルなシンセサイザーこそが、“これからのシンセサイザー”だと思っている、私。本体にスピーカーを内蔵していて、電池駆動に対応していれば、飛び上がって喜びます。

想像を絶対に超える、真空管シンセ「volca nubass」KORG「volca nubass」は、ベースに特化したアナログ・シンセサイザーで、ミニマムな筐体にシンセの醍醐味がギュッと詰まっている...
今を宿した、古き良き電子音「ELZ_1」SONICWARE「ELZ_1」は、11種類のシンセ・エンジンを搭載した、“ポータブルな音の実験室(ラボ)”です。 いわゆる“ガジ...
Behringer「TD-3」は、優秀な303クローン!Behringer「TD-3-AM」が届きました。「TD-3」シリーズは、代えのきかないベース・シンセサイザーとして今でも根強い人気を誇...

「UNO Synth」は、残念ながらスピーカー内蔵ではありませんが、電池(単3形×4)駆動と、USBバス・パワー駆動に対応しています。ポータビリティはちょっと落ちるものの、ノートパソコンやモバイル・バッテリーに接続することで、USBバス・パワー駆動でも電池駆動のときと同じくらい、場所にとらわれず遊べます。

ちなみに、USBバス・パワー駆動の際は、供給側のスペックによって、かなり大きいノイズが乗る(パワー不足が原因!?)こともあるので、どうぞご注意ください。知らぬ間に増殖して部屋の隅に転がっているUSBアダプターたちをかき集め、ランダムにいくつか試してみたところ、結構差がありました。

お、値段以上。IK Multimedia

この「UNO Synth」の購入を決めたとき、正直なところ、音にはそれほど期待していなかったんです。IK Multimediaの製品にはいつもたいへんお世話になっているし、そのお礼も兼ねて、フラフラ持ち歩いてビービー遊べるオモチャにちょっとお布施してみようかな、と、そういう気持ちでした。

それが、なんということでしょう! ビックリするほどジューシーなアナログ・サウンドを奏でてくれるスーパー・シンセサイザーが届いたではありませんか! お、値段以上。IK Multimedia!! これじゃお布施にならないぜ!

関連記事はこちら