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「ZEN-Coreシステム」について、ちゃんと知りたい!

Roland「ZEN-Coreシステム」が更新され、待望の「ZENOLOGY Pro」がリリース、そして、「Model Expansions」がハードウェアにも解禁されました。

ここでは改めて、「ZEN-Coreシステム」の概念を整理しつつ、どういったことが実現できるのかについて、深堀りして参ります。

ZEN-Coreシステムとは

Roland「ZEN-Coreシステム(ZEN-Core Synthesis System)」は、母体となる「ZEN-Core」音源、楽器の構造/材質/挙動から音を生成するPhysical Modelling系音源、往年の銘器を再現したAnalog Behavior Modeling系音源など、さまざまなタイプの音源を自由自在に混ぜ合わせることができる、拡張性の高いシンセ・エンジンの“規格”です。

例えば、「ZEN-Coreシステム」に対応しているシンセサイザー「JUPITER-Xm」は、第1パートにAnalog Behavior Modeling系の「JUNO-106」のシンセ・パッド音色を、第2パートにPCM系の「XV-5080」のエレピ音色を、第3パートにAnalog Behavior Modeling系の「SH-101」のシークエンス音色を、第4パートにAnalog Behavior Modeling系の「JUPITER-8」のシンセ・ストリングス音色をそれぞれ配し、すべてを重ねて鳴らすこと(レイヤー)も、音域を分けて鳴らすこと(スプリット)もできてしまいます。

これを20年前にやろうとするならば、腰痛を覚悟しつつキーボードと音源モジュールを運び出し、ラック・マウントされた青いMIDIインターフェイスに接続して(厳密には、DCBコンバータとCV/Gateコンバータも必要ですね……)、こんがらかったオーディオ・ケーブルをほどきながら、ガチャガチャとミキサーにつなぐよりほかなかったはずです。

10年前になってようやく、DAWとソフトシンセを駆使することで、複数タイプの音源を重ねた音色を作ることも現実的になりました。ですがしかし、そこで鳴っていた音は、間違いなく“Roland公式の音”ではなかったでしょう。

そういった意味で「ZEN-Coreシステム」は、Rolandのビンテージ・アナログ・シンセサイザーやPCMシンセサイザーたちが、録音スタンバイ状態でズラリと貴方をお出迎えしてくれる“夢の俺専用スタジオ”である、という言い方もできそうです。

ここで、「ZEN-Coreシステム」でスタンバイしてくれている音源(ちなみに「ZEN-Coreシステム」では、音源を「モデル」と呼びます)たちを見てまいりましょう。

PCM&Virtual Analog系

オシレータをPCM/SuperSAW波形/バーチャル・アナログ(演算による波形生成)などから選べる、最大同時発音数256音の音源

 

  • 「ZEN-Core」
  • 「XV-5080」
    (純粋なPCM以外のオシレーターはオミット)
  • 「RD-PIANO」
    (純粋なPCM以外のオシレーターはオミット)
Analog Behavior Modeling系

往年のRolandシンセサイザーを再現したバーチャル・アナログ音源

 

  • 「JX-8P」
  • 「SH-101」
  • 「JUNO-106」
  • 「JUPITER-8」
Physical Modelling系

楽器の構造/材質/挙動から空気の振動をシミュレーションして音を生成する、物理モデリング音源

 

  • 「V-Piano」
Model Expansions

往年のRolandシンセサイザーを再現したバーチャル・アナログ音源

 

  • 「JX-8P」
  • 「SH-101」
  • 「JUNO-106」
  • 「JUPITER-8」

「ZEN-Coreシステム」のように、異なるタイプの音源をいくつも内包するシンセサイザーがこれまで皆無だった、というわけではありません。YAMAHA「EX5」、KORG「OASYS」、KORG「KRONOS」など、先端技術の見本市のようなモンスター級のシンセサイザーたちが、過去に何度も市場を沸かせてきました。

ただ、上記のシンセサイザーたちが「ZEN-Coreシステム」と決定的に違うのは、“あくまで単一のハードウェア”だったという点です。一方「ZEN-Coreシステム」は、規格であり、特定の製品を指す言葉ではありません。花から花へ舞う蝶のように、対応ハードウェア間をまたいで利用することができます。しかもそれだけにとどまらず、ハードウェアとソフトウェアの境目をゴリゴリと消し去ろうとさえしているのです。

特に、今回のアップデートで実現した、「Model Expansions」のハードウェア解禁は、そのコンセプトが色濃く打ち出されております(「Model Expansions」については、後ほど詳述します)。

▲Roland「ZEN-Coreシステム(ZEN-Core Synthesis System)」の概念図(アップデート前)。既出の断片的な情報をつなぎ合わせて、私が勝手に作ったものなので、実際のアーキテクチャーとは異なる可能性もあります。ご了承ください。
▲Roland「ZEN-Coreシステム(ZEN-Core Synthesis System)」の概念図(アップデート後)。ハードウェアとソフトウェアの共有領域(緑色)がさらに拡がりました。ユーザーは、ハードウェアをパソコンにつなぐだけで、両者の境目を意識することなく行き来できます。

ここまでを一度まとめます。

「ZEN-Coreシステム」とは、

  1. 往年のRolandシンセサイザーを再現した音源、次世代を見据えた高解像度のPCM&VA音源、究極のリアルに迫る物理モデリング音源などが、録音スタンバイ状態で貴方をお出迎えしてくれる“夢の俺専用スタジオ”である
  2. さらに、対応製品同士であれば、ハードウェア/ソフトウェアを問わず、多くの音源を横断的に利用できる規格である

ハードウェアでできることとソフトウェアでできることが共通化されていて、しかも互いに溶け合える。これは、家の外に持ち出して携帯ゲーム機として遊ぶこともできるし、家の中でTVに接続して据え置き機として遊ぶこともできるNintendo「Nintendo Switch」を彷彿とさせる、野心的な“いいトコ全部取り”規格なのではないでしょうか!

ZEN-Coreシステム対応ハードウェア

▲「ZEN-Coreシステム」のフラグシップ・ハードウェア、Roland「JUPITER-Xm」。ベロシティ対応のコンパクト鍵盤、スピーカー内蔵、電池駆動…… これこそ、“2020年のシンセサイザー”のあるべき姿、大正義です!

「ZEN-Core」システムに対応しているハードウェアは、現在7製品あります。

製品名 搭載している「ZEN-Core」システムの音源
「JUPITER-X」 「ZEN-Core」「XV-5080」「RD-PIANO」、Analog Behavior Modeling系の「JX-8P」「SH-101」「JUNO-106」「JUPITER-8」、Model Expansions系の「JX-8P」「SH-101」「JUNO-106」「JUPITER-8」
「JUPITER-Xm」 「ZEN-Core」「XV-5080」「RD-PIANO」、Analog Behavior Modeling系の「JX-8P」「SH-101」「JUNO-106」「JUPITER-8」、Model Expansions系の「JX-8P」「SH-101」「JUNO-106」「JUPITER-8」
「FANTOM 6/7/8」 「ZEN-Core」「V-Piano」
「MC-707」 「ZEN-Core」
「MC-101」 「ZEN-Core」
「RD-88」 「ZEN-Core」
「AX-Edge」 「ZEN-Core」

こうして一覧を眺めてみると、「ZEN-Coreシステム」は拡張性がウリなのに、「ZEN-Core」音源しか搭載していない製品が結構あるのね…… という声もあがりそうですが、そもそも「ZEN-Core」音源自体が、長年Rolandが積み上げてきた歴史の集大成となる“5つの多彩なオシレータ”を持っていますので、どうぞご安心ください。

▲「MC-707」リファレンス・マニュアルより引用。「ZEN-Core」音源だけでも、PCM/VAのみならずPCM-SyncやSuperSAWなど多彩なオシレータを扱える点に注目です。

ちなみに、製品によっては、「ZEN-Coreシステム」に属さない音源を別途搭載している場合もあるようです(「RD-88」の「Super NATURAL Piano」音源や、「JUPITER-X」「JUPITER-Xm」の「VOCODER」音源など)。

史上最小のフラグシップ・シンセサイザー

ZEN-Coreシステム対応ソフトウェア

▲「TR-909」のソフトシンセ目当てで「Roland Cloud」に登録した私は、「ZENOLOGY」の、このあまりにもシンプルなデザインに「しょーもないPCMシンセがオマケで付いてきた!」と正直、思ってしまいました…… しかし、「ZEN-Coreシステム」の崇高な理念を理解するにつれ、それがたいへんな誤解であったことに気付かされるのです!

ソフトウェアとして「ZEN-Coreシステム」に対応しているのは、VSTi/Audio Units/AAX互換のプラグイン「ZENOLOGY」です。

この「ZENOLOGY」を使用するには、「Roland Cloud」という月額課金制サービスのメンバーシップ登録が必要になります。月額2.99ドルの「Core」、月額9.99ドルの「Pro」、月額19.99ドルの「Ultimate」という3種類の有料プランのほか、「ZENOLOGY」の機能制限版「ZENOLOGY Lite」が使える「Free」プランも用意されているので、ご自身の都合の良いプランを選んで、ぜひ体験してみてください。

▲フル・エディットが可能な「ZENOLOGY」の兄貴分、「ZENOLOGY Pro」。Partial単位のエディット(横軸)だけでなく、“全Partialのオシレーターだけ”“全PartialのLFOだけ”といった具合に、全Partialの単一機能を4つ見比べてエディットする(縦軸)こともできて、とても便利。

ちなみに、ひとつだけ注意がございます。単体の「ZENOLOGY」は、「ZEN-Coreシステム」における“1パート分の「トーン(=音源+エフェクター)」”を切り出したもの、になります。つまり、音源もエフェクターも1系統ずつしかありません(※「ZEN-Core」音源の音レイヤーは最大8つ重ねられます)。4~10系統のエフェクターを積んでいるのが当たり前になっている昨今のヘヴィ級ソフトシンセとド正面から比較するには、前提となる体重別階級が食い違い過ぎていると思います。複数台立ち上げてレイヤーし、お好みのエフェクターをDAW側で足すことで、「ZENOLOGY」は真価を発揮してくれることでしょう!

Model ExpansionsのアップデートでZEN-Coreシステムは超進化!

さてこの度、「ZEN-Coreシステム」内の「Model Expansions」がアップデートされ、「ZENOLOGY」と「JUPITER-X」「JUPITER-Xm」間で、「Model Expansions」を使った「トーン」をやりとりできるようになりました。

前述のとおり「Model Expansions」とは、Rolandの往年のシンセサイザーを「ZEN-Coreシステム」上で再現できる音源の総称です。現在「Model Expansions」には、「JX-8P」「SH-101」「JUNO-106」「JUPITER-8」がラインナップされています。

せっかくですので、一つひとつの音源を詳しく見てまいりましょう。

JX-8P Model Expansion


実機の「JX-8P」は、最大同時発音数6音のアナログ・シンセサイザーです(オシレータのみデジタル制御)。同時期にリリースされたフル・デジタルのYAMAHA「DX7」、Roland「D-50」が大ヒットしたこともあり、不運にもアナログ時代の終焉を告げる製品となりましたが、鍵盤演奏にクロス・モジュレーション機能を絡めることで生まれる“表現力の豊かさ”は、アナログ・シンセサイザー随一とも言われています。

SH-101 Model Expansion


実機の「SH-101」は、最大同時発音数1音のアナログ・シンセサイザーです。シンプルながらもヌケの良いサウンドと、ミニマルで可愛らしいルックスで、発売から40年近く経った今でも、多くの音楽家たちを魅了し続けています。

「Model Expansion」の「SH-101」は、同時に複数音を鳴らすことができるポリフォニック仕様にパワーアップしています。

JUNO-106 Model Expansion


実機の「JUNO-106」は、最大同時発音数6音のアナログ・シンセサイザーです(オシレータのみデジタル制御)。
私が大学生だった2000年当時、暇さえあれば秋葉原を散策していたのですが、どこの中古楽器屋さんにも「JUNO-106」が数台、所在なげに立て掛けられていたものでした(値札はだいたい3万円前後)。しかし、年々レア度が高まっており、現在は、中古相場が高騰しまくっているシンセの筆頭に挙げられます。

▲tc electronic「JUNE-60 CHORUS」。全体的なルックも似せてあって、非常にカワイイ!!

「JUNO」シリーズといえば、コーラス・エフェクトがとにかく有名でして、演奏家の多くに「とりあえず、かけておく!」と言わせるほどの出色の出来となっています。あまりの人気に、そのコーラス・エフェクトだけをシミュレートした製品もリリースされています。

シンセの上に置いておくと、玄人感250%増!

JUPITER-8 Model Expansion


実機の「JUPITER-8」は、最大同時発音数8音のアナログ・シンセサイザーです。音楽家に、「国産シンセで1番スゴいのは何?」という超絶ザックリした質問を投げかけると、70%以上の確率でこの「JUPITER-8」の名前が返ってくるのではないでしょうか。それくらい、“伝説のシンセサイザー”なのであります。

なるほど、まったくわからん!

せっせとまとめていたら、かなり長くなってしまいましたが、いかがだったでしょうか。「ZEN-Coreシステム」は、将来を見据えた理想のシンセサイザーの形を高い次元で実現している素晴らしい規格だ、と心底思うのですが、いまいちパッとしないというか、さほど市場に驚かれていないというか……

これは私の想像ですが、「ZEN-Coreシステム」の全体像が、市場にほとんど伝わっていないのではないか、という気がしています。

例えば、まったく違うレイヤーに「ZEN」の3文字が入る用語が3つも出てきたり(規格を指す「ZEN-Core Synthesis System」、音源を指す「ZEN-Core」、製品名を指す「ZENOLOGY」)、Analog Behavior Modeling系音源とModel Expansions系音源とがまったく同じラインナップだったり(「ZENOLOGY」の公式ページには「Model Expansionsはビンテージ・シンセサイザーのエッセンスをAnalog Behavior Modelingで忠実に捉える」と書かれていることもあって余計に混乱する)、今のところ「ZEN-Core」音源とModel Expansions系音源以外の音源はすべて製品固有の音源なので、宣伝文句から抱くイメージほど融通が利かなかったり。

こういったことが積み重なって、「ZEN-Coreシステム」の全体像を“なるほど、まったくわからん”ものにしてしまっている、と思います。今回のアップデートを機に、わかりやすく説明できる製品をバンバン追加投入していただき、「ZEN-Coreシステム」が本当の意味での革命を起こすことを、心より願っております!

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