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シンセのすべてを凝縮、妥協なき「SH-4d」の魅力

紫陽花が色付くころになると、写真を楽しめるウキウキ気分と一緒に、「湿気対策をしなくちゃ」というゲンナリ気分がやって来ます。マイク類や小物は、カメラの防湿庫にしまっておけますが、ギター(特にレス・ポール)のネックだけは、どうしてもかなり影響を受けてしまうのですよね~。

「SH-4d」とは

Roland「SH-4d」は、11種類のオシレーター・モデルを搭載した、テーブルトップ・タイプのシンセサイザーです。11種類のオシレーター・モデルの中には、Rolandのビンテージ・アナログ・シンセ「SH-1」「JUNO-106」を再現したオシレーター、近年のシンセ界を牽引しているウェーブテーブル系のオシレーター、FM系のオシレーター、PCM系のオシレーター、そして、この機種独自のVA系オシレーターなどが含まれており、驚くほど振れ幅の大きいサウンドを単体で創出することができます。

オシレーター・モデル 概要
SH-4d 4つのオシレーターのサウンドを混ぜられるVA系オシレーター
SH-3D 3つのオシレーターを、第2のLFOで変調できるVA系オシレーター
SYNC ピッチ・エンベロープを使った、鋭利な音を奏でるVA系オシレーター
SH-101 アナログ・シンセ「SH-101」を再現したオシレーター
JUNO-106 アナログ・シンセ「JUNO-106」を再現したオシレーター
Cross FM 豊富な倍音を付加できる、2オペのFM系オシレーター
RING 2つのオシレーターをかけ合わせられるオシレーター
WAVETABLE 波形の断片をループ再生するウェーブテーブル系オシレーター
CHORD 1音でコード(2~4和音)を鳴らせるオシレーター
DRAWING 描いた波形で演奏できる、波形メモリ音源風のオシレーター
PCM 4つの汎用性の高いサウンドを混ぜられるPCM系オシレーター

加えて、PCM系オンリーながら気の利いたサウンドが取り揃えられているリズム・パートや、いわゆる“パラメータ・ロック”に対応した高性能なシーケンサーも装備しているので、“とにかくたくさんのシンセ・サウンドに埋もれたい!”という願望を直球で満たしてくれる、最高のプロダクトに仕上がっております。

最適解がすぐそばにあるワークフロー

以前「Nord Wave 2」をレビューさせていただいたときに、ワークフローを優先するためシンセサイズの自由度を多少奪ってしまっているが、[OSC CTRL]と名付けられた万能パラメータが縦横無尽に立ち回ることで、その不足感がむしろ快感へと昇華されている、ということを書きました。メーカーは違えども、この「SH-4d」の根底にも似たような思想が流れていたので、ぜひご紹介させていただければ、と思います。

両立する親しみやすさとハイエンド、「Nord Wave 2」4月1日より“「Nord Wave 2」体験モニタープログラム”に参加しておりまして、2ヶ月もの間、「Nord Wave 2」と戯れられ...

例えば、オシレーターの[RING]は、2つのオシレーターをかけ合わせる“リング・モジュレーション”を施した音色を作るために用意されたモデルであります。お年を召した御仁であれば、「えっ!? このオシレーターを選択しないとリング・モジュレーションをかけられないの?」と思われるはず。……そうなんです、これまでの古い設計思想では、リング・モジュレーターを搭載、と宣言したからには、要不要を問わずリング・モジュレーターが常にスタンバイ状態であらねばならぬ、と考えられていました。しかし、いつもいつでもリング・モジュレーターが八面六臂の大活躍をするわけではありません。目的とオシレーター・モデルとを厳格に紐付けることで、リング・モジュレーターを使うんだったら「処理を端折ったりせず、シッカリやろうぜ!」と、逆にリング・モジュレーターを使わないんだったら「その計算パワーを他に割り当てようよ!」という選択と集中が可能になるのです。

限られたデジタル・リソースで最適解に辿り着く工夫は、サステイナブルな生き方を求められる私たちにとって、もっとも重要な考え方ではないでしょうか!

サウンドの傾向

本機は、「ZEN-Coreシステム」非対応ながら、「ZEN-Coreシステム」全体にそこはかとなく横たわる炭酸飲料のような“シュワ~ッとした爽やかさ”を継承したサウンドに仕立てられています。ギリギリ知覚できる細かさの粒子感、とでも言いましょうか、Nordのガッツリ感とも違えば、リアル・アナログのモッチリ感とも違う、繊細でHi-Fiなサウンドです。おそらく、「ZEN-Coreシステム」の代名詞「JUPITER-X」などと同一のBMC(Behavior Modeling Core)チップを用いているため、音の傾向が似通っているのだろう、と思われますが、ただ、「ZEN-Coreシステム」に対応していないことで「Roland Cloud」を通じた音色/パターンの拡がりが期待できず、そこはちょっと残念ポイントかもしれません。


さて、ここらで休憩がてら1曲どうぞ。メインのモチーフは数年前に出来ていたのですが、それを彩る音のピースがうまくはまらず、多くの試行錯誤を経て、「SH-4d」に助けていただく形となった自作曲でございます。オーガニックでない、いかにもシンセっぽいサウンドのすべてを、「SH-4d」に担当してもらっております。

遊びゴコロを忘れない

teenage engineeringの製品群、とりわけ「OP-1」を震源とした“オモシロ可愛いUI”が脚光を浴びる昨今のシンセ界。我らがRolandも、ちゃっかりキャッチ・アップしておりました。それが、本機の[VISUAL ARPEGGIO]たち! ボールが床に跳ねる様子をディレイ音に見立てた[BOUNCE]、最初期のビデオ・ゲーム効果音を模した[PONG]、星の軌道で音量を制御する[ORBIT]など、見ていて楽しいうえに超実用的な(なんとMIDI OUT可能!)MIDIエフェクトが5種類も搭載されています。

また、筐体を持ち上げ傾けることで(言い換えると、ジャイロ・センサーによって)サウンドに変化をもたらす[D-MOTION]の存在も忘れてはなりません。これは、左右と前後の2軸に対して割り当てた2種類のパラメータを、傾き具合だけでいっぺんに操作できちゃう素敵機能。……「実用的か?」と真顔で問われたら困ってしまうのですが、かの「TB-303」だって「こんなもん使えんだろ!」と罵られ打ち捨てられた時代があったわけですから、この先どれだけ大化けするかなんて、誰にもわかりませんぞ~!

それにしても「D2」やら「D-Beam」やら、Rolandの製品に“D”の文字が付くと、途端に怪しい気配が漂うのは何故でしょう……

マシン・ライブに挑戦しようぜ!“六十の手習い”という素敵な言葉がありますけれども、いくつになっても新しい物事に、素直な関心を抱ける人間でありたい、と強く思っております...

新時代のスーパーサブ・シンセ

金属製のトップ・パネルが放つ重厚な風貌から、「なんでもござれ!」なフラグシップ的貫禄を感じさせる「SH-4d」ですが、(アナログで)パラ・アウトできなかったり、(アナログの)外部入力がエフェクト回路をスルーするようになっていたりと、ちょっと頼りないポイントもチラホラ。なので私は「SH-4d」に、アンサンブルの“母艦”としてではなく、ゴリゴリのVAシンセからアコースティックなピアノまで、どんな音でも妥協なく鳴らせる優秀な外部音源=“新時代のスーパーサブ・シンセ”としてご活躍いただこう、と画策しております!

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