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ゲームボーイと、Eurorackと

先達もすなる“Eurorack(ユーロラック)”といふものを、私もしてみむとてするなり。

とても長い前置き

本題に入る前に…… 今回ご紹介する、“同規格のモジュールを組み合わせて作る電子楽器”の呼び名をどうすべきか、とても悩みました。

そもそもこの“同規格のモジュールを組み合わせて作る電子楽器”、歴史を正確に辿っていくと、ドイツのシンセ・メーカーであるDoepfer(ドイプファー)が、1995年に「A-100 Analog Modular System」というモジュラー・システム(全10モジュール)をリリースしたところからすべてがはじまります。これ以前にも別のモジュラー・システムはいくつか存在していましたが、Analogue Systems/Cwejman/Make Noise/TipTop Audioといった有力メーカーたちが「A-100 Analog Modular System」の規格に準拠したモジュールを次々とリリースしたことで、デファクト・スタンダード化し、シーンを形成しはじめます。加えて、ハードウェアの電子楽器を販売する際に大きな障壁となる“電源周り”をケース側に任せられる現実的な利点も手伝ってか、超零細ガレージ・ブランドによる独創的なモジュールも続々と市場投入され、(Doepferが積極的に“仕掛けた”わけではないにもかかわらず!)もっともエッジィでイケてる電子楽器である、という空気が内外に醸成されていきました。そして、それから数年も経たず、大半のシンセ・メーカーが本格参入するようになり、「A-100 Analog Modular System」の規格(=Eurorack)は、その地位を確固たるものにしたのです。

で、話を冒頭まで戻しますと、本記事でご紹介する“同規格のモジュールを組み合わせて作る電子楽器”――正確を期するならば、“モジュールで構成されるタイプのシンセサイザー/エフェクターの中でとりわけEurorack規格に準拠したもの”――これをひとことで“Eurorack(ユーロラック)”と言い表す場合と、“Modular Synth(モジュラーシンセ)”と言い表す場合とがあり、悩まずにはいられなかったのでございます。ちなみに、海外フォーラムなどでは間違いなく“Eurorack(ユーロラック)”が優勢なのですが、日本国内ではEurorack規格を指して“Modular Synth(モジュラーシンセ)”と呼ぶのが一般的なようです。

我らゲーム業界勢は、この図式に、“NES”と“ファミコン”という“呼び名のすれ違い”によって、00年代初頭までお互いの情報交換が遅々として進まなかった事例を、否が応でも想い起こすことでしょう。共通する話題なのに、共通する固有名詞を伴っていないだけで、情報が早く/広く/正しく伝播しなかったのです。

それを踏まえつつ、いろいろと考えを巡らせましたが、私個人と本サイトでは“モジュールで構成されるタイプのシンセサイザー/エフェクターの中でとりわけEurorack規格に準拠したもの”を“Eurorack(ユーロラック)”と呼ぶことにします。理由は、シーンの最前線である英語圏の判断を尊重したいのと、“Modular Synth(モジュラーシンセ)”という呼び名は本来上位概念であり、やや普遍的なため、Buchlaなの? Frac Rackなの? Moogの独自規格のヤツ? となりかねない可能性もあるからです。

ケース・Buy・ケース

ということで、さっそくEurorackをはじめます! まず、最初に必要となるのは、“ケースと電源”。私は、SUGIZOさんの真似をして、Roland「SYR-E84」を購入しました。結構イイお値段なのですが、これだけではいっさい音が出ません。しばらくは、ガランドウの箱を見ながら、ただ妄想を膨らませるだけの日々を過ごしました……

ちなみに、ケース選びで気にかけるとよいのでは、というポイントは、増設(スケール・アウト)しやすさと電源の容量(ないしは有無)だと思います。どちらも最初にジックリ練っておかないと、いざ「拡張するぞ!」というときに、ケースを含めたシステム全体をまるまる入れ替えなければならない、なんてことも…… その点「SYR-E84」は、縦方向のスタックが可能なのと、2,000mA(+12V)のパワー・サプライ機能を有しているので、安心です。

空のケースを埋めていこう

次に買ったのは、“モジュール”です。モジュールは、シンセやエフェクターを構成する機能の一部だけ~ほぼ全部を備えた機器で、前述のケースに固定して(&電源を接続して)使います。普通は、オシレーターなど音が出るモジュールをいの一番に選ぶのでしょうが、私はやりたいことがあったので、リバーブ系エフェクターであるstrymon「STARLAB」と、アッテネーターstrymon「AA.1」を購入しました。

strymonと言えば、ギター・エフェクター・ブランドの名門。私も、同社の「BigSky」「TIMELINE」「Zuma R300」に、いつもたいへんお世話になっております。そんな彼らがリリースするEurorackモジュールのプロダクト群は、まさに、最新テクノロジーを求め、新境地へと果敢に挑む“堅忍不抜の精神”のあらわれでありましょう。試さないわけにはまいりませぬ!

エフェクターの使用感が180°変わる、strymon「NIXIE」新製品というわけではないのですが、先日発見した“カトちゃんのクシャミ”のような名前のこのソフトウェア、とても使い心地が良かったので、ご紹...

ゲームボーイを改造します

そして最後に取り掛かったのが、ゲームボーイの改造! 今回、「Eurorackに挑戦してみよう」と考えはじめたキッカケが、実はこのゲームボーイでありまして。Eurorackの柔軟性を借用することで、以前からずっとあたためていた“ゲームボーイの作曲ソフトで作った曲やゲームから流れるBGMを、リアルタイムに加工し自作曲に取り入れる”という構想を実現できるのでは! と思い至ったのであります。ですから、単にケースに収めるだけでなく、音にかかわるパーツを最高品質のものに付け替える改造も施しました

回路的にはおなじみの“Pro Sound”(純正のライン・アウトを使わず、ボリューム・ポット直後のランドから支流を作って、オーディオ・シグナルをダイレクトに出力させる改造)なのですが、配線材も半田もステレオ・ミニ・プラグもオヤイデ電気の極上品を用いまして、最終的に、単純なコスト比で100倍くらい高級な改造と相成りました。

ただ、出てくる音も極上で、以前の比較記事を改定せねば、と思っているほどです!

音楽家のための初代ゲームボーイ(DMG-001)音質比較“ゲーミング・〇〇”という呼称はともすれば、鮮やかな光を放つものに対する侮蔑的なニオイを感じさせなくもありませんが、私といたしましては、...

こんな音が出ました

そんなこんなで、“私のはじめてのEurorack”で手掛けた、2つの小品をご笑覧くださいませ。



もっと私自身の練度を高める必要はありますが、やりたいことをやれそうな、そんな雰囲気を掴めた気がします。今後は、LFO系モジュールを中心に、表情豊かなモジュレーション・ソースを追加し、「STARLAB」のパラメータをギュワンギュワンと揺らしまくりたいなぁ、と思っています!

何と言っても、木製サイド・パネルがカッコいい!
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