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想像を絶対に超える、真空管シンセ「volca nubass」

KORG「volca nubass」は、ベースに特化したアナログ・シンセサイザーで、ミニマムな筐体にシンセの醍醐味がギュッと詰まっていることで人気の「volca」シリーズ最新作となります。

宣伝フレーズに多用されている“真空管シンセサイザー”とは一体どういう意味なのか? 303とは似ているのか!? ひとつずつ紐解いてまいります。

いきなり否定から入ります

私は、真空管のウォームな歪み/ゴリゴリした無骨なドライブ感、などといった言葉に代表されるような、シンセサイザーの音に対する“味付け”は、プリアンプやエフェクターで行なうべきだ、と思っている質です。ですので、音の最初の出口より前の段階に真空管を挟むなんてことは、不可逆的な、取り返しのつかない価値の毀損である、とさえ考えています。

しかしながら! KORGが連綿と真空管搭載の製品を出し続けている(「ELECTRIBE MX」「ELECTRIBE SX」「TRITON Extreme」「SV-1」「SV-2」など)からには、少なからぬ需要、多大なる称賛があるのだと思います。その辺の事情の考察も含めて、偏った見方にならないよう、「volca nubass」をチェックしていきます。

真空管の否定から生まれた新真空管「Nutube」

▲新世代の真空管「Nutube」。蛍光体が青白く発光する姿が美しい! 三重県の工場で生産されているそうです。

「volca nubass」には「Nutube」と名付けられた、新世代の真空管が内蔵されています。どういう点が新世代なのか、を知るために、ひとまず一般的な真空管の特徴をおさらいしましょう。

真空管は、ギターアンプやオーディオ機器で多用される電子部品のひとつです。主に音を増幅するために使われ、その音は、代えのきかない独特の魅力がある、ともっぱら言われています。

しかし真空管は構造上、消費電力が大き過ぎて電池駆動に向いていない、サイズが大き過ぎて小さい筐体には入れられない、耐久性が低過ぎて寿命が短い、個体差のバラツキが激し過ぎて人力での最終チューニングが必要になる、というネガティブ要素の塊なのだそうです。

最上の音をユーザー届けるためにKORGも、ネガティブ要素の毒沼にあえて踏み込み、長年に渡って真空管と闘ってこられました。百歩譲って、消費電力とサイズと耐久性の問題はなんとかなるとしても、海外からの輸入に頼るしかない真空管の、その性能のバラツキには、ホントに泣かされ続けていたそうです。そこで、真空管の国内製造に乗り出すのですが、紆余曲折を経て、自分たちで製造するしかない、という結論に達し、ついには、あらゆるネガティブ要素を完全にひっくり返した=真空管に対する既成概念を完全否定した、新世代の真空管「Nutube」を発明するに至ったわけです。

「Nutube」は、省電力化/小型化/個体差の抑制/長寿命化を実現したうえで、いわゆる真空管が持つ音の特性を十分に有しています。つまり、“最強の最強”なのですが、試作段階ではなかなか周囲の理解を得られず、開発者の方々におかれましては、ご苦労の連続だったようです。

そんなバック・グラウンド・ストーリーを知ってから聴く「volca nubass」のビキビキなサウンドは、最高の最高ではありませんか!?

ただウォームにするわけじゃなかった!

新真空管「Nutube」の革新性は理解できましたが、では「volca nubass」において、それがどう活かされているのか、というポイントが気になるところです。

「volca nubass」以前のKORGの真空管搭載シンセに共通していたことは、真空管が、音の出口の直前に配され、出音全体をウォームにドライブする役目を担っていた、という点です。それゆえ、KORGの真空管搭載シンセは、デジタル・シンセなのにアナログの質感を備えたぬくもりのある音がする、と評されてきました。

この「volca nubass」も、本体右上に[DRIVE]というツマミがあるので、購入以前は、「ははぁん、Nutubeとやらで出音全体を歪ませるんだな!?」と想像していたのですが……

しかし実際には、2系統あるNutube回路の片方は、メイン・オシレーターとしてノコギリ波/矩形波を生成するために使われていたのです! 真空管で波形を生成する、まさに“真空管シンセサイザー”!! これまでの味付け用途とは一線を画す、超積極的な真空管の居場所が用意されていたのでした。

ちなみに、もう一方のNutube回路は、サブ・オシレーターの[SATURATION]に使われています。こちらはやや従来的な使われ方ですね。

となると、[DRIVE]ツマミはDSPなのか!? と勘ぐってしまうところですが、これまたアナログ回路(非Nutube)を用いているそうで、アナログに対する強い情熱とコダワリを感じずにはいられませぬ。

一度まとめておきます。

「volca nubass」は、メイン・オシレータの波形生成に真空管を使っています。こういった真空管の使い方は、KORGのシンセでは前例がありません。言い換えると、これまでの真空管の使い方が“味付け”だったのに対し、「volca nubass」では“原料”として真空管を使っているわけです。

ですので、その出音は、ウォームでアナログな風情がある、という次元ではなく、真空管の魅力と出汁がパンパンに濃縮されている、と表現すべきなのかもしれません。

いつでもどこでもは正義

▲YAMAHAの製品情報より引用。1993年に発売された、YAMAHA「EOS B700」です。「EOS」シリーズの源流は、1988年にリリースされた「YS100/YS200」ですが、大半の方々は、スピーカーが搭載された「B200」以降の「EOS B」シリーズを思い浮かべることでしょう。今でこそ、シンセにスピーカーを搭載することは素敵な発想だと感じられるのですが、ちょっと前までは、家電量販店に並べられているポータブル・キーボード類を想起させるからなのか、シンセ好きたちからは強烈に敬遠されていた記憶があります。

Behringer「TD-3」で遊んでおりますと、さらにポータブルな「volca nubass」が魅力的に見えてきます。どちらも、シーケンサーを有するアナログ&モノフォニックでベース向きの、似たような性能のシンセではありますが、「volca nubass」は、電池駆動&スピーカー内蔵なので、いつでもどこでも即席マシン・ライブを楽しめるからです。

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ちょっと前までは、スピーカー内蔵のシンセが出るたびに「EOSかよ!」という、しょーもないツッコミがあったものですが、現在では小さくて質の良いスピーカーもたくさん出回っていますし、寝っ転がってシンセをいじれるなんて、「なんだ、ただの天国じゃないか!」と思いませんか?

303クローンとは呼ばせない

アシッドなベースに特化してチューニングされている点、スライド/アクセント機能を有したステップ・シーケンサーを搭載している点、トランジスタ・ラダー・フィルターを採用している点、ストンプ・ボックス風オーバードライブ・エフェクターを搭載している点からも、Roland「TB-303」を意識していないとは言わせないぞ、な仕様なのですが、独特な部分が多過ぎて、まったく新しい概念の楽器になっている、という素敵プロダクトであります!

新世代真空管が奏でるベース・サウンド!
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