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現代アレンジの利いたヤオヤ風ドラム・マシン「RD-8」

「“手打ち風”は手打ちにあらず」「“本格派”は本格にあらず」という話を聞いたとき、とても「ほえー!」と思ったものです。

一方で、20年前に叫ばれていた「DCOはアナログにあらず」という主張は、いつの間にか消えてしまいましたね。その主張が消えたおかげで、昨今のアナログ・シンセ市場の賑わいがある…… のかもしれません。

THE ドラム・マシン!

Behringer「RD-8」は、銘器Roland「TR-808」をお手本にした、定番ど真ん中のアナログ・ドラム・サウンドを再現できるドラム・マシンです。

サウンドだけでなく、制作フローもオリジナルを踏襲。16個並んだ[STEPキー]を鳴らしたいところだけ押していく、いわゆる“TR-REC方式”と呼ばれるスタイルで、いかにもドラム・マシンらしい打ち込みを簡単に実現できます。

また、「AKAIみたいに、パッドで打ち込みたい!」という方のためには、[TRIGGER]パッドが用意されています。この[TRIGGER]パッド、残念ながらベロシティには対応していませんが、リアルタイム・レコーディングでガシガシ打ち込んでいくには十分な質感です。

TR-REC方式での打ち込み法

▲1~16までの[STEPキー]を16分音符に見立て、鳴らしたい位置のキーを押下しランプを点灯させることで、ノートを入力していきます。ちなみに、オリジナルは、左側が赤色で右側が白色です。

[VOICE SELECT]ボタンで音色を選択

任意の[STEPキー]を押す

音色を替えて繰り返す!

[TRIGGER]パッドでの打ち込み法

▲オリジナルでは、今で言うところのリアルタイム・レコーディングの概念に対して“タッピング”という名称が与えられており、再生しながら[タッピング・ボタン(TAP)]を叩くことでもノートを入力できました。

[VOICE SELECT]ボタンで音色を選択

[STEP REPEAT]ボタンと[NOTE REPEAT]ボタンが点灯していないことを確認(点灯していたら、押して消灯する)

[RECORD]ボタンを押し、[PLAY/PAUSE]ボタンを押す

[TRIGGER]パッドで演奏する

音色を替えて繰り返す!

現代的なアレンジも豊富

実機に忠実なだけでなく、指定の音色を「タタタタタ……」と連打する“ノート・リピート”、つまずいたように同じ箇所を再生する“ステップ・リピート”、ハイ・パス/ロー・パスを切替可能な“アナログ・フィルター”、アタックとサステインを調節し、コンプレッサーのような効果を生む“ウェーブ・デザイナー”、Trapのみならずポップスでもよく聴くようになったラチェットを織り込める“RPT機能”、USBケーブルでDAWと同期できる“USB MIDI機能”など、今だからこそのアレンジもたくさん盛り込まれています。

その中でも特にアナログ・フィルターは、ツマミの動きを記録/再生/調整できるオートメーション機能を有しており、無機質になりがちなドラム・パターンを有機的な雰囲気に一変してくれる、心強い味方となることでしょう。

そのほか、同価格帯のプロダクトでは類を見ない、11系統のパラ・アウト出力を装備している点も見逃せません。音色を単独出力できる、ということは、パラでレコーディングできるのはもちろん、ライブにおいても各音色のパン/エフェクトを個別に調整できるので、たいへん便利です。ただし、単独出力する際は、アナログ・フィルターやウェーブ・デザイナーの回路が強制的にスルーされてしまう、という仕様になっているため、注意が必要です。

SONGモードは地獄

DAWですべてを解決してしまうこのご時世、そもそもどこまで需要があるのか怪しいですが、「RD-8」のSONGモードは地獄です。いろいろと新規要素を詰め込みつつも、比較的シンプルな操作感を死守しているシワ寄せが、SONGモードに凝縮されてしまった印象で、「果たして、このモードで曲を構築する人は地球上に存在するのか?」と感じるレベルです。

まず、SONGの作業をするための主たるモードがPATTERNモードである、というところが何より狂っています。まるで禅問答のようです。さらに、操作のたび何かしらのボタンがピカピカ点滅したり、ペカーッと点灯したりするのですが、ひとつのボタンに多くの意味を持たせて過ぎていて、何が行なわれたのか、何をやればいいのか、サッパリわかりません(日本語の追補マニュアルの手順が若干間違っているのも混乱を招く原因でした。英語マニュアルを見ましょう)。山のような困難を経てパターンを並べ終わっても、どのパターンがどこにアサインされているのか、の一覧性がありません。わかるのは、パターンが切り替わる境目とパターンが何回繰り返されているか、だけです。

……しかしながら、前項で触れたとおり、ライブ・パフォーマンスのための機能はかなり充実していますから、SONGモードを“パターン・パッチの切り替え”程度に捉え、PATTERNモードと己の脳ミソを駆使してその場で曲を構築していくスタイルに徹する(もしくは、素直にDAWで制御する)のが、精神衛生的に健全なのかもしれません。

音はまぁまぁ似ています

さて最後に肝心のサウンドですが、世に数多出回っているエミュレーション系のソフト・シンセと互角に渡り合えるくらいには実機に似ています。一聴すれば「808系の音ですね」と十分に認識できるレベルです。ただ、良い意味でも悪い意味でもハキハキと活力に満ちていて、“夏休みデビューして垢抜けた同級生”のような違和感は拭えません。より具体的に言い換えるならば、高域が綺麗に出ていて、中低域の独特なモタツキが控えめ、という感じです。

一方で、アナログならではの質感もしっかり備えているので、今後の経年変化でさらにオリジナルに近づくかも……(逆に、離れていく可能性も大いにありますが)!?

▲Roland Cloudに登録すると使える「TR-808ソフトウェア・シンセサイザー」の画面。Analog Circuit Behavior(ACB)技術によって、実機のサウンドが精密に再現されています。

実機に似せたくて似せたくて仕方がない方は、Roland印の正統なプロダクトにそれを求めるのが筋でしょうから、「RD-8」はむしろもっと純粋に、直球の、アナログの、いかにもドラム・マシンらしい音色と手触りを、できるだけ安価に手に入れたい、という方にこそオススメの製品だと思います!

モデリングじゃないアナログ・ドラム・マシン!
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