sound

シンセ界のスーパーサブ、「bx_oberhausen」

“Plugin Alliance”という海外のサイトがあります。建付けは日本の楽天市場と似ておりまして、Plugin Allianceが提供するプラットフォーム内で、参画するディベロッパーたちがプラグインを販売し、ユーザーはそれを横断的に購入/管理できるようになっています。

ひとときは玉石混交でカオスな雰囲気でしたが、現在は導線が整理され、信頼できるディベロッパーや製品と出逢いやすくなりました。今回ご紹介する「bx_oberhausen」も、Plugin Allianceで見つけ、購入したプロダクトです。

「bx_oberhausen」とは

Brainworx「bx_oberhausen」は、Oberheim「SEM」をエミュレーションした、VST/Audio Units/AAX互換のソフト・シンセです。

オリジナルの「SEM」は、ARPのディーラーやモデファイを生業にしていたトム・オーバーハイム(Thomas Elroy Oberheim)氏がはじめて手掛けたアナログ・シンセサイザーで、ロー・パス~バンド・リダクション/バンド・パス~ハイ・パスへと滑らかに変化する独自の“ステイト・バリアブル・フィルター”を装備しているのが特徴です。

そして、その「SEM」をソフトウェア上で復刻しようと試みたのが、Brainworx「bx_oberhausen」なのです。

一級品のサウンド

メインの構成は、オシレーターが2基、フィルターが1基、エンベロープ(DecayとReleaseが共通になっている特殊仕様)が2基という、今となってはとてもシンプルかつベーシックなスタイルではありますが、余計な装飾を避け、オリジナルを忠実に踏襲している点に好感が持てます。

肝心のサウンドは、立ち上がりのブリブリ感や、粒立ちのバラけっぷり、音色変化時の粘り気などなど、真に迫るアナログらしさを有し、近年のエミュレーション系ソフト・シンセの中でもトップ・クラスのクオリティを実現しているのでは、と思います。

ただ、両手でババババーッと弾くと、若干ブチブチすることもあり、CPU負荷には気を遣う必要がありそうです。どうしても気になる方は、ドラフト時のみメイン・パネル左下の[TMT]をOFFにするとよいでしょう(TMTについては後述します)。

鍵を握るのは、[LFO 2]!

メイン・パネルの右下にある[LFO 2]は、オリジナルにはない「bx_oberhausen」ならではの追加機能です。しかしながら、[LFO 2]をモジュレーション・ソースにするための操作子がどこにも見当たりません……

それもそのはず、[LFO 2]をモジュレーション・ソースにするには、サブ・パネルの[Mod](モジュレーション・セクション)を開く必要があります。そもそもこのモジュレーション・セクション自体もオリジナルにはない追加機能であり、[LFO 2]と二人三脚で、「bx_oberhausen」を半歩進んだ独自性のあるシンセサイザーへ昇華させるための、大切な要素を担っています。

ちなみに、この[LFO 2]以外のパラメータたちは、TMT(Tolerance Modeling Technology)という特許出願中の技術(やっていることは“アナログ回路内の素子の挙動を精確に数式化し……”という、いつものヤツです)が使われているそうです。

さて、ここからは「bx_oberhausen」と関係のない与太話です。

私、過去に特許を取得した経験がございまして、その際にお世話になった行政書士の方から、このようなことを教えていただきました。

「“特許出願中”というのは、特許化できそうもない凡庸な技術を、出願しつつも拒絶されないよう審査請求せず、“未審査(=出願中)”の状態を長引かせることで、その期間、『あの会社は特許になりそうなすごい技術を持っているんだ!』と周りに見せかける“こけおどし”として用いられるケースもある」と……(繰り返しますが、Brainworxがそうだ、と言っているわけではありませんからね!)

バカしバカされ、オトナの世界とは、なかなかにたいへんなのであります。

小粒でもピリリと辛いエフェクト群

「bx_oberhausen」には、Plugin Alliance仲間のMaag Audioが開発した「AIR BAND」の機能制限版や、BOSSのストンプ・ボックスをイメージしたであろうコーラスなど、全6種類のエフェクトが内蔵されています。パラメータの絞り方やピントの合わせ方の巧さは、さすが、数々のエミュレーション系エフェクターを作り続けてきたBrainworxの面目躍如といったところでしょう。

個人的には「AIR BAND」がイチオシでして、普通のEQでは扱わない超高域を持ち上げることで、サウンドにシャッキリとしたハリをもたらしてくれます。昔から、デジタル録音された音に生気を宿すため、一度アナログの機材をとおして(積極的な加工はせず)、再度デジタル録音し直すことを“外に出す”とか“空気をとおす”なんて言ったりしますが、まさにそういった手法によく似た結果を手軽に得ることができます。「bx_oberhausen」の音の良さの1割くらいは、この「AIR BAND」が底上げしているのでは、と思えるほど素晴らしい出来だと思います。

▲本文では触れませんでしたが、アルペジエイターも搭載しています。機能が至って地味なことと、同時発音数が爆増しやすいことから、ちょっと使い所が難しい機能だな、と感じました。

此処一番で実力を発揮

何でもこなせる器用さこそありませんが、美味しい場所でしっかり仕事をしてくれる“代打の切り札”的な存在感のシンセサイザーです。そういえば、オリジナルの「SEM」も、ARPやMoogの“サブ機”として開発されたのだそうですよ。

うーむ、立ち位置までエミュレーションしてしまうとは…… Brainworx、恐るべし!

関連記事はこちら