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コンプ沼の終着駅、Tone Projects「Unisum」

おせち料理の「昆布巻き」は、“よろこんぶ”という茶魔語のようなしょーもないギャグでスタメンになったわけですが、コンプのスタメンはしょーもないギャグでは決められません。真剣勝負であります。

「Unisum」とは

Tone Projects「Unisum」は、デジタルとは思えないほどのクリアなサウンドと、膨大なパラメータを操ることができる柔軟性が特徴の、VST/Audio Units/AAX互換マスタリング用コンプレッサー・プラグインです。

“AIで良しなに!”とか“ワンノブで整う!”というプロダクトが濫立する中にあって(別に悪いわけじゃないですよ)、それらとはまるっきり対照的に、ユーザー自身が緻密に作り込むための“道具”であろうとする精神を持った製品であります。

メイン・セクションの機能

「Unisum」の「メイン・セクション」では、ステレオのL/R、もしくは、Mid/Sideに分けて、個別にコンプレッションの設定を行なうことができます。周囲と比べてひと回り大きいツマミは、コンプレッサーのごく一般的なパラメータですから、説明不要でしょう。

[RELAX]は、圧縮が最大値付近になった際の挙動を設定します。左側の[lin]に近いほど[RATIO]で設定したとおりの挙動に、右側の[lax]に近いほど[RATIO]の設定よりもややソフトな挙動になります。

[GR LIMIT]は、圧縮が適応される音量幅を設定します。圧縮開始地点の音量からこの値を超えて大きい音量が入力されると、圧縮されなくなります。

[KNEE]は、圧縮がはじまる滑らかさを設定します。数字が小さいほど急激なかかり方をし、数字が大きいほど柔らかいかかり方をします。

[REL.CURVE]は、リリース曲線を設定します。左側の[lin]に近いほどエネルギッシュなサウンドに、右側の[log]に近いほど滑らかなサウンドになります。

[HYGGE]は、倍音を変化させ、厚みのあるサウンドに仕立ててくれます(圧倒的なパラメータ群を備えつつも、ココだけ何故かブラック・ボックス仕様なんですよね…… マスタリング用にしてはかなりドラスティックに音が変わるので、ご注意を)。

左上の[SC HP][SC EMPHASIS/SC DIP/SC LP]は、サイド・チェイン系のパラメータです。サイド・チェインと言っても、別のトラックのバス・ドラムの音を入力してモジュレーション・ソースにする例のアレではなく、入力音自身を分析し、ポンピングを起こしにくくしたり、[THRESHOLD]への引っかかりやすさを調整したりします(ちなみに、例のアレ用のサイド・チェイン機能は有しておりません。残念!)。

スタイル・セクションの機能

もっともっと細かい設定を望む方は、[Edit Style]ボタンを押下して、「スタイル・セクション」にアクセスすることができます。「スタイル・セクション」は、下記に記した「MULTIBAND DETECTORパート」「ATT/REL MODIFIERSパート」「CHANNEL LINKパート」の3つのパートで構成されています。

MULTIBAND DETECTORパート

入力音を3つの周波数帯に分け、圧縮感度の調整、重みづけ、そして[RATIO]に乗じる係数の設定ができます。

マルチバンド・コンプレッサーに近い挙動を実現することができます。

ATT/REL MODIFIERSパート

[ATTACK]と[RELEASE]をさらに細かく場合分けして設定できます。圧縮の強度によってアタック/リリース・タイムを変えたり、圧縮の持続時間によってアタック/リリース・タイムを変えたりすることができます。

例えば、サビ(音量大)とそれ以外(音量小)の挙動を別々に調整することができます。

CHANNEL LINKパート

ステレオのL/R、もしくは、Mid/Sideのそれぞれの処理に差をつけるか、つけないかを設定できます。最終的に、中央にある[CHANNEL LINK]ツマミの位置でかかり方が変わります。

例えば、基本の設定はM/Sともに共通ながら、リズムが集中しがちなMidに対してのみ、Sideよりも波形のスパイクが削れにくいようにする、といったことが可能です。

「スタイル・セクション」の設定がややこしいと感じる場合は、「スタイル・セクション」だけのプリセットも用意されているので、そちらを利用しましょう。

まるでコンプレッサー・ツクールです

▲「Unisum」のPlugin Manualより引用。このシグナル・フローを見ると、各機能への理解がさらに深まります。

パッと見、謎のパラメータが多く、果てしなくとっつきにくい雰囲気を醸し出していますが、信号のフローは簡潔かつ的確で、「おぉ、そういうことか!」といちいち納得させられる、美しい設計になっています。

考えようによっては、「光学式コンプレッサーって過入力時にこういう挙動をするんだよね」とか「キビキビ動作する真空管コンプレッサーがあるとすればこんな感じ」といった風に、機能の取捨選択をとおして“自分好みのコンプレッサーをデザインできるコンプレッサー”とも解釈可能な、画期的プラグインでありましょう!

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