メインのパソコンが壊れ、復旧に時間がかかってしまい、少々久しぶりの投稿でございます。普段からバックアップを心がけていたので、「あぁ、せっかく購入した〇〇が消えてしまった!」というたぐいの惨事は避けられたのですが、頑張ってリファインしたチップチューンのMIDIデータを避難させ忘れたのは、とてもショックなのでありました……!
「Kelvin」とは
Tone Projects「Kelvin」は、2段構えのサチュレーション回路と3バンドEQを組みわせてサウンドを作り込める、VST/Audio Units/AAX互換の歪み系プラグイン・エフェクトです。
もともとは、同社の「Unisum」に内蔵されている“HYGGE”と名付けられたサチュレーション回路を独立させてシンプルな単機能エフェクトに仕立てるつもりだったそうですが、幸か不幸か、新型コロナ・ウイルスの影響で開発に多くの時間をかけられるようになり、ほとんど新規の、しかも“HYGGE”より質の高いエフェクトとしてリリースされることになりました。
“アナログ的”のひとことでは片付けられない
「Kelvin」は、ソフトウェアの歪みエフェクトにありがちな「ブムオォワンヮンワンヮン……」というヒステリックな膨らみ方ではなく、「ブビビビビィィイン……」という、粒子感を伴った音楽的な歪み方をしてくれます。この効果を、雑に“アナログ的”と言ってしまうこともできるのかもしれませんが、それでは「Kelvin」の魅力が半減しそうなくらい上品で旨味の強いドライブでして、純アナログの機材と比較しても(経年変化や希少性や個体差など、ソフトウェアにとって絶対に不利となる諸要素を差し引けば)この質感を超えられるものはほとんど存在しないのでは、とさえ感じます。
特に、ビンテージ・ドラム・マシンの枯れたバス・ドラムを通すと絶品オブ絶品で、思わず、保管用HDDから昔制作したプロジェクト・ファイルたちを引っ張り出し、片っ端から「Kelvin」をかけて回ってしまいました。
音の良さの秘密は、サチュレーション回路のアルゴリズムの出来の良さだけでなく、内部での適切な自動音量コントロールとオーバー・サンプリングにもあると思います。エフェクターと対峙しつつも目指したい音が明確でない場合、人類は“全パラメータ・フルテン”という強い重力に惹かれてしまうものです。こと歪み系エフェクトでそれが発動すると、作り手の意思とはかけ離れた“ヒドい音”が生成されるのは明白でして、そういう見地からも、本当によく考え抜かれた設計だなぁ、と感動してしまうのでした。
全機能の概説
「Unisum」の圧倒的なパラメータ群と比べるとかなりシンプルな構成の「Kelvin」ですが、機能が練り込まれているおかげで、歪み系エフェクターとしては驚異的なほど幅広いサウンドを生み出すことができます。
メイン・セクション
直列に配された2段のサチュレーション回路は、ドライブ量の増減だけでなく、トランス/真空管/ダイオードを模した6種類のモデル(特定パーツを完全エミュレートしたモデルもあれば、さまざまなパーツの特徴を組み合わせた架空のモデルもあるそうです)+純粋な偶数次/奇数次倍音を付加する2種類のモデルから歪み方を選択できます(最下段の[Clean]はバイパスなのでカウントせず)。
これだけでも十分サウンドをカラフルに彩れるのですが、さらに、[SPREAD]で左右チャンネルの倍音構成を微妙に変化させたり、[DEFUZZ]で中高域の歪みを低減したり、といった微調整も行なえます。
シェイピング・セクション
歪む前と歪んだ後、それぞれのサウンドをEQで補正します。
ちなみに裏ワザというほどでもありませんが、スライダーを極端に上げることで“第3のサチュレーション回路”として機能します。この場合、例の「ブムオォワンヮンワンヮン……」というヒステリックな膨らみ方をしがちなので、狙ってそうしたい場合を除き、[CLIP]を有効にして極端な設定は避けるべきでしょう。
[Render at Pristine]が優秀過ぎる
さて最後に、気になる負荷ですが、最高クオリティの[Pristine]でも「Unisum」ほどガッツリCPUパワーを持っていかれる印象はありません。しかもうれしいことに、レンダリング時にだけ自動で最高クオリティに設定し直してくれる[Render at Pristine]という優秀な機能が搭載されており(ただし、[実時間での書き出し]の場合は非対応)、やりくりをしてまで[Pristine]で動かそうとしなくても問題ありません。
いやぁ、「Unisum」にも心底ビックリさせられましたが、「Kelvin」は、その「Unisum」を軽く超えてしまっている気がします! 歪み沼の終着駅をお探しの方は、ぜひチェックしてみてください!