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8bitサウンドの魂を解き放つ「LIVEN 8bit warps」

「ELZ_1」を開発したSONICWAREから、ついに「LIVEN 8bit warps」がリリースされました!

2020年1月26日にKickstarterで一目惚れし、2020年10月29日に手許にやってくるまでの間(そして、その後も)、週次で届く開発過程の心躍る情報たちは私にとっての希望の星となり、鬱々とした世界をひときわ明るく照らしてくれました。

そんな待望のプロダクト「LIVEN 8bit warps」を、しばらく向き合ってみて感じたことやプレス・リリースだけでは辿り着けないマニアックな魅力などを絡めつつ、ご紹介いたします!

「LIVEN 8bit warps」とは

「LIVEN 8bit warps」は、「ELZ_1」で好評を博した出音の方向性はそのままに、3倍以上に増えたツマミ、思いがけない使い方でも大活躍する16個のステップ・キー、パラメータ・ロック可能なシーケンサーなどなど、マシン・ライブ向けの機能を目一杯詰め込んだコンパクトな電子楽器です(しかも、電池駆動&スピーカー内蔵で、私的“大正義”であります!)。

今を宿した、古き良き電子音「ELZ_1」SONICWARE「ELZ_1」は、11種類のシンセ・エンジンを搭載した、“ポータブルな音の実験室(ラボ)”です。 いわゆる“ガジ...

そのネーミングが示すとおり、黎明期のゲーム・ミュージックを彷彿とさせる“8bitサウンド”を作り出すことに特化した、WARPATTACKMORPHFMと呼ばれる4種類のシンセ・エンジンが音作りの主役となります。

WARPは2つの波形を混ぜて鳴らすタイプ、ATTACKは2つの波形を前半と後半とで順番に鳴らすタイプ、MORPHは3つの波形を循環させて鳴らすタイプ、FMはFM音源っぽい制御ができるタイプです。4種類も覚えることがあるのか! と怯んでしまいそうになりますが、基本はどれも“32サンプルの「波形メモリ音源」”ですので、ひとつ分かってしまえば、スルスルッと4種類すべてを理解できることでしょう。

波形メモリ音源の基礎知識

そもそも「波形メモリ音源」とは、1周期ぶんの波形を定義して音を作るシンセサイザーのことで、“32サンプルの「波形メモリ音源」”であれば、上図のように、1周期が32個のマス目で構成されるタイプの任意の波形を鳴らせる、という意味になります。

同じく波形メモリ音源を搭載したソフト・シンセ「Kamata」の画面(公式YouTubeより引用)。アナログ・シンセ的な波形(サイン波/矩形波/ノコギリ波/三角波など)の再現にとどまらず、既成概念から大きく逸脱した自由な発想で波形を定義できるのが、波形メモリ音源の最大の魅力!

勘の良い人ならばこの辺で気づくかもしれませんが、めちゃくちゃ目が粗い&ループ・ポイントが短いPCM音源だと思っていただいて差し支えありません。

「LIVEN 8bit warps」は、63種類のプリセット波形に加えて、64種類のユーザー波形を登録することができます。ユーザー波形を作成するモードでは、本来シーケンサーのエディットで使う16個のステップ・キーを多用します。この操作法が実に白眉でして、ステップ1キーが-128、以降右へ16刻みで増えていき、ステップ8キーとステップ9キーの同時押しが0、ステップ16キーが127の値を入力できるできるようになっており、[VALUE]ツマミでサンプル位置を移動させながら任意の値のステップ・キーをポンポンと押していくだけで、波形を描けるようになっています。

従来、この手の波形の入力には、画面タッチやマウスのドラッグによる“一筆書き”がよく用いられてきましたが、いかにも波形メモリ音源らしいギザギザの波形やアトランダムな波形を入力するのが難しい、という欠点がありました。その点「LIVEN 8bit warps」のこの操作法は、ギザギザの波形やアトランダムな波形も簡単に入力できるうえ、操作自体がゲーム的でとても面白く、思わぬところでたいへん感動させられてしまったのでした!

どうせピコピコなんでしょ? いいえ、違います!

図だけではわかりにくいかと思いますので、「LIVEN 8bit warps」オンリーで、PC-98時代のアドベンチャー・ゲーム風の楽曲を作ってみました。「LIVEN 8bit warps」がどのようなサウンドを紡ぎ出してくれるのか、ご参考になさっていただければ幸いです。

◆メイン・シンセ(シンセ・エンジン:FM)※DAWのエフェクトはバイパスしています。

メインのシンセにはFMを使っています。LFOの波形を[RAND(ランダム波)]にすると、モーション・シーケンスっぽい雰囲気になったので、ディレイを強めに掛けて際立たせてみました。

◆サブ・シンセ(シンセ・エンジン:MORPH)※DAWのエフェクトはバイパスしています。

サブのシンセにはMORPHを使っています。MORPHの特徴である循環する音色に[FLTR CO]でお化粧をし、「ワヤンワヤンワヤン……」と鳴るようにしました。広がりや厚みを演出するため、わざとLFOの周期がズレるように設定して左右1回ずつ計2回録音しています。

◆ベース(シンセ・エンジン:WARP+FM)※DAWのエフェクトはバイパスしています。

ベースはWARPFMをレイヤーしています。WARPはサブ・ベース的な図太い芯を、FMは「ビィィン」というFM音源らしい質感を、それぞれ担っています。PC-98時代のアドベンチャー・ゲームといえば、FMのスラップ・ベース音色と大胆なクレッシェンド、という印象があり(偏見?)、その辺を意識してみました。

◆ハイハット(シンセ・エンジン:FM)※DAWのエフェクトはバイパスしています。

ハイハットにはFMを使いました。パターンは、パラメータ・ロック(各パラメータの変化をシーケンサーに記録できる機能)をふんだんに使って活き活きとしたグルーブ感を生み出している素敵なプリセットを選択しました。パッと聴き、単調に感じる音色だったとしても、パラメータ・ロックで驚きの変貌を遂げることも珍しくありません!

“8bitサウンド”という字面からは、どうしてもピコピコした音(しかも、ややネガティブな意味合いで)ばかりが思い浮かんでしまうものですが、そんな心配は杞憂に過ぎない! と断言できるくらい幅広い音作りができ、たいへん驚かされました。また一方で、PCMシンセサイザーやバーチャル・アナログ・シンセサイザーに搭載されている8bit系音色のインチキっぷりを痛感させられもしました。やはり、強いこだわりを持って作られた音源は、ひと味もふた味も違うものですね。

今こそ、マシン・ライブを楽しもう

複数台のシンセサイザーをシーケンサーと同期させ、リアルタイムにエディットしながら楽曲を構築していく“マシン・ライブ”は、今、世界的ブームを巻き起こしつつある、比較的新しいスタイルの電子楽器の楽しみ方です(今思えば、TM NETWORKの初期のコンサートは、すごく大がかりなマシン・ライブだったりしますし、1996年にリリースされた「MC-303」に端を発するRolandの「Groovebox」の系譜も、コンセプトは完全にマシン・ライブだったりするのですが、話がややこしくなるだけなので、ここではいったん横に置いておきましょう……)。

YMOのようにシンセサイザーを演奏して楽曲を構築する手法を“電子楽器ライブ:第1世代”、DJのようにエフェクターや再生の仕方で楽曲を再構築する手法を“電子楽器ライブ:第2世代”だとするならば、マシン・ライブはさしずめ“電子楽器ライブ:第3世代”と呼べるかもしれません。

「LIVEN 8bit warps」は、そんな流行の先端であるマシン・ライブを手軽に楽しめるよう設計されています。

ユーザーがやるべきことは、音色&パターンを選ぶ/作る、そして再生する。とにかく、それだけ! 非マルチ・ティンバーの潔い仕様のおかげで(ディレイを使いたいけどエフェクトが共通だから使えないや…… とか、ドラムを修正したいけど3チャンネルだっけ、4チャンネルだっけ…… みたいな煩わしさから解放され)、発想を音に変換することだけに集中できます。しかも、単にシンプルなだけではありません。ある程度慣れてきたら、自作の音色&パターンを内蔵の4トラック・ルーパーで多重録音して、1台完結のトラック・メイクを行なうことさえも可能です。

加えて、新旧の電子楽器たちと同期するための拡張性も十分に確保されていますので(MIDI IN&OUT/SYNC IN&OUT/Audio SYNC)、マシン・ライブ初心者のみならず、シンセ・ギークな御仁にもオススメできる逸品に仕上がっています。

チップチューンを解き放て!

やれ“〇〇チップの初期型以外はすべて偽物だ”とか、“パーツの違いは許容するが、実機から出ていないものはすべて偽物だ”とか、“実機から出さずとも、同時発音数が実機を超えるものは偽物だ”とか…… とかく内へ内へ意識が向かいがちなチップチューン界隈でありますが、この「LIVEN 8bit warps」は、マシン・ライブという名のワープ・ゾーンへ我々を転送し、8bitサウンドの魂を無限に解放してくれる宇宙船のような存在であると確信します。

さぁクルーのみなさま、ご搭乗手続きはコチラでございます!

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