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ヤオヤを作った神々が創った「RC-808」

田中雄二著『TR-808<ヤオヤ>を作った神々』、2度目の読了です。いや~、何度でも感動してしまいます。私自身、DTMマガジンの編集者/編集長として、ある程度は内幕のアレコレを知っていたつもりではありましたが、実際には、もっともっともっともっと……、いろいろな葛藤や闘いがあったことを知らされました。当時、リアルタイムでそういった熱量をうまく記事にできなかった自分の不甲斐なさを痛感せずにはいられません。せめてこれからは、今まで以上に“シンセ愛”を爆発させ続けることで、業界にほんの少しでも恩返しをしていければ、と思うのでした。

ということで、ヤオヤを作った神々が創った「RC-808」のご紹介でございます!

「RC-808」とは

Analog Mania「RC-808」は、ヴィンテージ(伝統)とヴァンガード(革新)を併せ持つ、VSTi/Audio Units互換&スタンドアローン対応のドラム・シンセサイザーです。

▲スタンドアローン版は、プラグイン版とはGUIが若干異なります。

スタンドアローン版のみ、音色とパーシャルのコピー&ペーストが可能ですので、スタンドアローン版で音色を作り込み、プラグイン版で読み込んで鳴らす、という使い方が便利そうです。

808ということは……

1970年代後半、Roland創業者の梯郁太郎さんは、「System-700」と「MC-8」の商業的失敗を受けて、放送局/研究機関向けの大艦巨砲路線を封印。以後、コンシューマー向けの楽器開発のみに注力する、という大きな決断を下します。これは、“ゼロからの再スタート”という想いを込めて名付けられた「TR-808」「TR-909」「TR-606」「TB-303」、すなわち“Mid-O”製品群が、その歴史を紡ぎはじめた瞬間でもありました。

電子楽器に興味があれば、絶対オススメです!

そして、その“Mid-O”製品群を開発したRoland“P8事業部”のチーム(=“ヤオヤを作った神々”=“Analog Mania”)が、再び自らの手で「TR-808」を正統進化させた“作品”が、この「RC-808」なのです。

Rolandじるしの御旗が掲げられていないのは、“ヤオヤを作った神々”の皆さまがすでにRolandを離れていらっしゃるため。とはいえ、「RC-808」の根底には、開発者ご本人だからこそ込めることができる、「TR-808」の真の魂とその先にある未来とが宿っています。

伝統の半歩先にある革新

そもそも「TR-808」は、あらかじめ「System-700」を使って音色を作り込み、その際に必要になった回路だけを抜粋して組み込む、という方法で開発されました(ただし、すべての音色が「System-700」からの部分移植だったわけではなく、例えば、クラップ音は独自の回路が組まれています)。結果、ユーザーが音色に介入できるポイントが極端に少なくなってしまい、当初標榜していた“ドラム・シンセサイザー”には辿り着けないまま、時間切れ(=発売)となったそうです。

一方で「RC-808」は、1音色ごとにフル・セットの「System-700」とほぼ同等のポテンシャルを有し(フル・セットの「System-700」は9オシレーター。「RC-808」の1音色は1オシレーター✕8パーシャル)、回路の有無による制限を受けることなく、縦横無尽にシンセサイズすることが可能となりました。

40年の歳月を経て、ついに“ドラム・シンセサイザー”と呼ぶにふさわしいプロダクトが誕生したのです!

ドラム・シンセサイザーを使いこなそう!

「RC-808」のドラム・キットは、16種類の音色([Instrument])で構成されています。1つの音色は、オシレーターとバイクワッド・フィルターとフィルターとアンプを1セットにした“パーシャル([Partial])”を8つ重ねて作ります。

以下、予備知識がないと理解しにくい部分だけ、サクッと見てまいります。

各パーシャルのオシレーターで使える波形は、正弦波/ノコギリ波/三角波/矩形波(パルス・ワイズ調整可能)/ホワイト・ノイズ1/ホワイト・ノイズ2(1とは、ランダムのアルゴリズムが異なる)/メタリック(「TR-808」のシンバルで用いられたノイズ・ジェネレーターをエミュレーションしたもの)の7種類。

メタリックのみ、小難しそうに見える別パラメータでの調整が必要となりますが、適当にガチャガチャ触るだけでも、あの「ヂィィィイイン」という独特の機械的な金属音を奏でてくれるので感動しちゃいます。

「RC-808」のオシレーターは、ダウン・チャープ・オシレーター(略して“DCO”)と呼ばれており、トランジェントに、インパルス信号のような込み入った周波数特性を有する「バツッ!」という音が入ります。LA音源で花咲いた「楽器音は、鳴りはじめの50msがもっとも大事」というP8事業部の思想が色濃く反映されている仕様です。

バイクワッド・フィルターは、音色の作り込みを担当します。ハイ・パス・フィルター/バンド・パス・フィルター/ピーキング・フィルターなど、シンセでもおなじみのフィルターたちが搭載されているので混乱してしまいますが、ここはあくまで音色の基礎を練り上げる場。一般的にイメージするフィルター、つまり、エンベロープを用いた時間的な音色変化は、後段のフィルター([VCF])で担当することになります。

最後に、すっごく地味ですが、絶対に忘れてはならないのが、[NOTE OFF]です。“Analog Mania”のリーダーである菊本忠男さんは、MIDI規格の策定に関わった時から、チャンネル10のドラム・トラックでノート・オフが利かないことを不満に思っていらっしゃったそうです。40年越しの想いに敬意を払う意味でも、「RC-808」を使う際はぜひ、[truncate]にチェックを入れたいところであります(排他選択なのでUIにはラジオ・ボタンを用いるのが正しいはずですが、何故かチェック・ボックスなのでちょっと注意)!

PCMという、ある種のぬるま湯に慣れきってしまった現代人にとって、アナログなお作法でドラム・サウンドを再現するのはとても難しいことですが、1パーシャルで“スネアっぽい音”を作ろうとするのではなく、全パーシャルを使い切るつもりで“ヘッドとスティック当たる最初の打音”“ヘッドが揺れて響く音”“シェルの胴鳴り”“スナッピーの音”“部屋鳴り”といった風に、細かく因数分解しながら積み上げていくと、イメージどおりのサウンドに近づけるかと思います。

今後にも期待大!

「RC-808」は、無料と言えど、現在進行系でバリバリ更新されており、最新版では、エンベロープのブレイク・ポイントが操作不能になるバグなども解消されていて、さらに使い心地が良くなっていました。今後は、高速フーリエ変換の分析ツールを追加する予定なのだそうです。

現場を離れてもなお研究精神旺盛な“Analog Mania”の皆さまの想いを受け継ぎ、何人にも真似できない自分だけのアイディアルな音作りを楽しみましょう!

Analog Mania「RC-808」公式サイト

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