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「Pigments 3」が最強シンセになりました

私には、加算合成方式のシンセサイザーへの果てなき憧れがあります。

あれはもう20年以上前になるでしょうか…… KAWAI「K5000シリーズ」のシンセたちが、ディスコンになる直前、秋葉原にあったラオックス楽器館で叩き売られていたのを「買うべきか買わざるべきか」と悩んで、結局見送ってしまったのです……

「Pigments 3」とは

モダンなサウンド作りに欠かせない3つのエンジン(バーチャル・アナログ/ウェーブテーブル/サンプル・プレイバック)を搭載した強力なハイブリッド系ソフト・シンセ「Pigments 2.0」が、全俺待望の“ハーモニック(加算合成)エンジン”をひっさげ、「Pigments 3」として生まれ変わりました。

3つの音源が織りなす「Pigments 2.0」のカラフル・サウンド!まんまとBlack Fridayを堪能しております。メール・ボックスにセール情報が飛び込んでくるやいなや、脱兎の如く買い漁りに行っている...

“流行ど真ん中”な方向性は維持しつつ、より“「Pigments」でしか出せない、「Pigments」らしい音”を作り込めるようになった印象。これはバージョン・アップのし甲斐がある、というものであります!

みんな大好き、ハーモニック・エンジン

なにはともあれ、目玉のハーモニック・エンジンから調査開始です。……とはいえ、そもそもハーモニック・エンジン、一般名詞で言うところの加算合成シンセシスとは何者なのでしょうか?

▲「K5000シリーズ カタログ」より引用。操作性を重視した「K5000S」のほかに、ラック・タイプの「K5000R」、ワーク・ステーション・タイプの「K5000W」がラインナップされていました。

今日の一般的なシンセサイザーには、オシレーターから発せられる(倍音を豊富に含んだ)波形をフィルター段でカットして音を作る、いわゆる“減算合成シンセシス”が汎く用いられています。減算合成シンセシスの考え方は、大理石の塊を削って立体像を取り出す「彫刻」に似ています。一方で、KAWAI「K5000シリーズ」やNew England Digital「Synclavierシリーズ」では、さまざまな音程のサイン波を足して音を作る“加算合成シンセシス”が採用されました。加算合成シンセシスの考え方は、粘土などを盛り付けて造形する「塑造」に似ていて、どこまでも伸びゆくきらびやかなサウンドや、アコースティックになりきれないジリジリしたサウンドが特徴です。

「Pigments 3」のハーモニック・エンジンは、そういった加算合成シンセサイザーたちの“進化版”にあたり、比較にならないくらい向上したコンピューターの性能を活かして、より緻密で実用的な音作りを実現できるようになっています(「K5000シリーズ」では、128個のサイン波を加算して音を作りましたが、「Pigments 3」のハーモニック・エンジンは、最大512個のサイン波を扱うことができます)。

さてここからは、押さえておくと便利なパラメータの紹介を軸に、「Pigments 3」のハーモニック・エンジンを観察してまいりましょう。

まず、中央左の[RATIO]ツマミ。右に回すと、各サイン波の間隔が拡がっていき、金属的な甲高い音になります。フィルターのようでフィルターでない独特の効果が面白いうえに、サウンドを破綻させることなく雰囲気だけを調整できるのでたいへん使い勝手が良いパラメータです。

中央にあるのは、[SPECTRUM]セクション。ここでは、12種類用意された「周波数プロファイル」(“フォルマント”のようなフィルター)を選択して、音にクセを付けます。[SPECTRUM A]と[SPECTRUM B]をモーフィングさせることで、複雑な経時変化を得ることも可能です。

[IMAGING]は、音の拡がり(ステレオ感)を調整できます。倍音単位でパンを振るためか、言葉では表現できないきれいな拡がり方をしてくれます。私は、[Periodic]Modeで[Depth]ツマミを11時~12時くらいに設定するのがお気に入りです。

最後に[Smooth]ボタン。押下すると、振幅の変化がゆっくりになり、「ビイィィ……ン」という倍音の細かい動きが聴き取れるようになります。ちょっとわざとらしいかもしれませんが、“加算合成っぽさ”を強調するのに役立ちます。

加算合成シンセサイザーはその仕組み上、いじればいじるほどホワイト・ノイズににじり寄って行きがちなのですが、「周波数プロファイル」という効果的に減算できる工夫を盛り込んだことで、美しく音楽的な響きのサウンドを得やすくなっているところが素晴らしいです。特有のとっつきにくさは否定できませんが、エクスクルーシブな出音を考慮すると、ぜひ手持ちの武器のひとつに加えたい、と心から思えるクオリティです。

地味にスゴいぞ、ユーティリティ・エンジン

ハーモニック・エンジンの影に隠れてしまった感が拭えませんが、こちらのユーティリティ・エンジンもかなり鮮烈な新機能です。

メーカー側は、あくまで、サブ・オシレーター的な役割と位置づけているようですが、サンプル・ベースのノイズ・ジェネレーター2基と、バーチャル・アナログ・エンジン同等のオシレーター1基を装備していて、十分にひととおりのシンセ・サウンドを作れてしまうくらいの超豪華仕様になっています。さらに、ご自慢の強力なモジュレーション機能もメインのエンジンたちに引けを取らない徹底ぶり!

ユーティリティ・エンジンのおかげで、テープ・ノイズや環境音を潜ませたり、リズミカルなシーケンスを走らせたり、ドラム・ループっぽいリズムを刻んだりなど、音色に多彩な“味付け”ができるようになりました。

これはもう、Arturia史上最高のシンセです

上記の2エンジン以外にも、64種類のウェーブテーブル、4タイプのエフェクト、「Jup-8 V」のフィルターが新規追加されているのですが、中でもエフェクトが驚異的な出血大サービス状態で、Shimmer系の効果も狙えるピッチシフト・ディレイや、単体販売されていた「Flanger BL-20」など、欲しかったアレやコレやが満載でした!

オトナな揺らし系、Arturia「3 Modulations FX」音作りの探求において「どこまでが何なのか」という定義にはさほど意味がないのかもしれませんが、それでも私の中では、“モジュレーション”とい...

“「SERUM」の後追い”という不名誉なイメージを完全に払拭した、まさに神アプデです!

「Pigments 2.0」は、無料(!)で「Pigments 3」にアップデートできます
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