ある日の深夜、唐突にTone2のシンセサイザーが欲しくなりました。当初は、無難に「Electra2」を買うつもりだったのですが、私の中の天の邪鬼がコッチにしろ! と五月蝿いので、「Icarus2」を買うことにしました。
蝋の翼を携えて太陽を目指した青年の名が付けられたシンセサイザー、果たしてその実力やいかに!
「Icarus2」とは
Tone2「Icarus2」は、同社が「3Dウェーブテーブル」と呼んでいる独自の音源(3次元でのモーフィングができるウェーブテーブル音源)を搭載しているVSTi/Audio Units互換のソフトウェア・シンセサイザーです。
オシレーターに読み込んだ波形(プリミティブなサイン波から、実在楽器のサンプリング音まで、どんな音でも読み込めます)に対して、加算/減算/FM/AM/PD/リング・モジュレーション/フォルマント/ウェーブ・シェイピング/ノイズ……など、名目上67もの方式で変調を加えられるのが大きな特徴となっております。
また、ちょっと変わったところでは、どんな波形もSuperSaw化できる“Hypersawモード”なんて機能もあります(厳密には、ノコギリ波限定ではなく、オシレーターに読み込んだ波形を幾重にも重ねる機能)。この機能には、同じ波形を重ねることによって生まれがちな“意図しないスパイク”を防止するため、位相のズレを自動で最適化する、という工夫も盛り込まれています。
そういえば、Waldorf「KYRA」にも“Hypersaw”というモードが搭載されていましたが、ホントにみんなSuperSawが大好きですね(もちろん、私も好きです!)。
Omnisphereという名の太陽を目指して
これだけですと、大量の変調方式を載せた“変調偏重シンセ”で終了なのですが、「Icarus2」が本当に素晴らしいのは、さまざまな変調で生成された音を、アルペジエイターとグリッチ・シーケンサーとマルチ・ステージ・エンベロープ・ジェネレーター(以下、MSEG)によって、立体的に再構成することができる点です。
アルペジエイターで音階を、グリッチ・シーケンサーでDJ的な効果を、MSEGでツマミの有機的な操作をそれぞれ設定することで、かのSpectrasonics「Omnisphere 2.6」が搭載している“シンセ界最強のアルペジエイター”に匹敵、あるいは、部分的に超越する音作りが可能となります。
プリセット音色には、このアルペジエイター&グリッチ・シーケンサー&MSEGを極限まで活用して作られた“1 Key Hold”なるカテゴリが用意されているほどでして、その名のとおり、ひとつの鍵盤を押さえ続けるだけで豪華なアンサンブルを奏でることができます。
肝心の変調パラメータが、ブラック・ボックス
変調バリエーションの多彩さが特徴の「Icarus2」ですが、肝心の変調に関わるインターフェイスは、ちょっと納得いかない作りになっています。
と言うのも、変調に関連するパラメータが、オシレーター・セクション([Waveform display])内の[MORPH]ツマミと[LFO 2]ツマミに集約されてしまっており、何を用いてどのように変調しているのか、ユーザーからはまったく見えないのです。
シンセに詳しくない人でも音作りを楽しめるように、という心配りなのかもしれませんが、パラメータを完全に隠してしまうのは少々やり過ぎな気がします。
その点、先にも挙げたSpectrasonics「Omnisphere 2.6」は、[OSCILLATOR ZOOM]内にて、変調に関連するパラメータを把握しながら編集できるので、納得感がとても高いです。
当世風デジタル・サウンドが満載
「Omnisphere 2.6」のプリセットが、情緒ある映画音楽的な色を持っているのに対し、「Icarus2」のプリセットは、今っぽいバキバキなデジタル・サウンドに振り切っている印象です。
動画の中にもそういった派手な音がたくさん登場しますが、個人的には、とりわけ地味でいかにも日の当たらなそうな“Semireal”というカテゴリの音たちがツボです。
膨大なマルチ・サンプリングにより、本物の楽器とほとんど変わらないレベルにまで表現力を高められる現代にあって、あえて狙ってその辺縁に収まろうとする“Semireal”な音たちに、シンセサイザーの真の存在意義を見いだせるような気がしてならないのです!