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“Dimension D”の謎を解き明かす鍵「DC-2W Dimension C」

ここ最近、BOSSのプレミアム・ラインである“技 WAZA CRAFT”のプロダクトをせっせと集めているのですが、どれも半端なく出来が良くて感動しっぱなしです。2014年の登場時に横目でスルーした自分に全力で言ってやりたいなぁ、「バッカモーン!」と。

「DC-2W Dimension C」とは

BOSS「DC-2W Dimension C」は、スタジオ機材として人気があったモジュレーション系エフェクトRoland「SDD-320 Dimension D」(1979年リリース)のストンプ・ボックス版であるBOSS「DC-2 Dimension C」(1985年リリース)を、現代の技術で復刻した製品。コーラスのようでコーラスでない、“自然で奥深い広がり感”が特徴のエフェクトです。

本記事では、この「DC-2W Dimension C」を手がかりに、あやふやでオカルティックな情報ばかりが氾濫している「SDD-320 Dimension D」の“真の姿”に迫ってみたい、と思っています。「DC-2W Dimension C」のサウンドだけが気になる方は、聴音篇をご覧ください。

出題篇

▲2001年リリース、BOSS「CE-20」。前年にリリースされたLine 6「MM4 Modulation Modeler」を強く意識したのか、それまでのBOSSでは見られなかった“往年の銘機のモデリング”を主コンセプトとする製品。
オトナな揺らし系、Arturia「3 Modulations FX」音作りの探求において「どこまでが何なのか」という定義にはさほど意味がないのかもしれませんが、それでも私の中では、“モジュレーション”とい...

上記の記事にて触れておりますとおり、私は、未だにBOSS「CE-20」を愛用しているほど、「SDD-320 Dimension D」の独特なサウンドが大好きでして、ついに(ほぼ)本物を手に入れられた! という喜びと感動で胸がいっぱいになっている最中なのですが、それと同時に“ある疑問”が記憶のゴミ捨て場からムクムクと這い出してきました。

それは、“ディメンション・モード・スイッチの正体とは!?”という疑問。

そもそも「SDD-320 Dimension D」というエフェクトは、エフェクトを切るための[OFF]スイッチなどを除けば、[DIMENSION MODE]と名付けられ1~4の番号が振られたたった4つのスイッチだけで操作を行ないます(このような突飛な設計になったのは、「パラメータを可変させると“スイート・スポット”を見つけ出すのが困難になる」というメーカーの配慮から)。4つのスイッチは、オーナーズ・マニュアルによると、“コーラス・インテンシティーの違いによる4つのモードを選択する”ために用意されたインターフェイスとされ、本来は互いに排他仕様になっている(ひとつ押下すると、他が跳ね上がる)のですが、絶妙な加減で“同時押し”することも可能でした。このバグ的な挙動が、正規の4モードとは異なる“隠しバリエーション・モード”を呼び出す裏ワザなのではないか、というまことしやかな噂を巻き起こし、あっという間に世界中のスタジオを席巻。数年後には“公然の秘密”となるほど、同時押しの手法は定番化しました。ただ、その音を聴いて「わぁ、ホントに変わった!」とおっしゃる方がいる一方、「う~ん、変わったようには思えないんだけど……」とおっしゃる方もいらして、“真偽不明”のまま現在に至っています。

そんな“ディメンション・モード・スイッチの正体とは!?”という疑問なのですが、3つの“謎”が絡み合って話をややこしくしているので、まずはその謎をほぐして整理するところからはじめてみよう、と思います。

謎1:内部ではどのような処理が行なわれているのか?

謎2:[Mode4]の真の機能とは?

謎3:同時押しに意味はあるのか?

謎1は、エフェクト全体についての謎です。スイッチが並んでいるだけの簡素な見た目なのに、やたら素敵な音になってしまうことから、古来よりさまざまな憶測が飛び交ってきました。さらに悪いことに、年を経るごと根も葉もない尾ひれはひれがくっついて、今ではオカルトめいたオーパーツのように扱われつつあります。完全ではなくても、ある程度具体的にどのような処理が行なわれているのか解明しないことには、一歩も先に進めません。

謎2は、[OFF]スイッチを除く、1~4の番号が振られた4つのスイッチ(以下、それぞれ[Mode1][Mode2][Mode3][Mode4]と呼ぶことにしましょう)の中で唯一灰色で作られている[Mode4]についての謎です。聴感上、[Mode1]→[Mode2]→[Mode3]→[Mode4]とエフェクトの効きがだんだん強くなっていくようには感じるのですが、何故、ひとつだけ他と異なる色が与えられたのか。だんだん灰色が濃くなっていくのでは駄目なのか。ネットを巡ると「1番使える音だから!」と結論づけている御仁もいらっしゃいましたが、もう少しだけ左脳っぽく把握したいところです。

謎3は、定番の裏ワザとされる“同時押し”の意味についての謎です。Universal Audio「1176 Limiting Amplifier」よろしく、並んだスイッチがあれば同時押しをしたくなるのが人情、ってなモンですが、「1176」のような効果の差は本当に生じるのでしょうか。差があるとすれば、それは押下する組み合わせとどのような関係があるのでしょうか。

謎2の話題に関連して、公式サイトにも右脳感全開なコメントが記載されていたので、もう「1番使える音だから!」で良い気もしてきました……

特にボタン4のサウンドはオリジナルSDD-320のボタン4の色が違うことからも示唆されている通り、唯一無二のサウンドになります。

『BOSSのWAZA』特集ページ

解明篇

謎1:内部ではどのような処理が行なわれているのか?

謎1の答えは、Roland「SDD-320 Dimension D」のオーナーズ・マニュアルに記載されていました(灯台もと暗し!)。ブロック・ダイアグラム(上図)によると、LFOとBBD(バケット・ブリゲード素子)によって生み出されたコーラス的なサウンドに対して、もう一対の同じ回路(こちらはLFOを逆位相にしている)で生み出したサウンドを当てることで、音程の揺れ(=コーラスらしさに直結する“うねり”)を打ち消して、音程のズレと遅れのみを抽出しているようです。

結果だけをつまむと、ぶっちゃけ、ちょっとシャープした音とちょっとフラットした音を重ねているのとほぼ同義なのですが、DSPで真似事をしてみてもオリジナルのサウンドにはまったく近づかないので、やっぱり職人技の隠し味ががそこかしこに秘められているんだろうなぁ、と感じます。例えば、“for noise reduction”と書かれているとおり、もともとはダイナミック・レンジの狭いBBDのノイズ対策として積まれているコンプレッサーやエキスパンダーも、絶妙な味わいを醸成するスパイスとして少なからぬ影響を与えていることでしょう。

飽くなき知識欲をお持ちの方のために、小難しい説明も遺しておきます。

コーラス・エフェクトに用いられる双曲線VCO回路は、BBDへ渡すクロック周波数をキレイな三角波のLFOでモジュレーションすると、音程が矩形波状にうねる性質を持っているそうです。そして、音程が矩形波状にうねった音と、その逆位相でうねった音を同時に鳴らせば、“ちょっとシャープした音とちょっとフラットした音”が連なったように聴こえる、というわけです。

バカっぽい例えで申し訳ございませんが、「ド、ミ、ド、ミ~♪」と「ミ、ド、ミ、ド~♪」を一緒に鳴らすと「ド+ミ~~~♪」になる、というイメージでとらえていただければ!

謎2:[Mode4]の本当の機能とは?

謎2のヒントも、ブロック・ダイアグラムに潜んでいました。上図は、前項のブロック・ダイアグラム全体図から“DIMENSION MODE”付近を拡大したものですが、“DIMENSION MODE”の右上にある増幅器に、スイッチが記されています(左右チャンネルにそれぞれ1基ずつ)。このスイッチには、ウェット信号(エフェクト音のみのサウンド)を[-10dB]もしくは[(±)0dB]にする機能が与えられていますが、肝心の表面的なインターフェイスが見当たりません。そこで浮かび上がってくるのが、[Mode4]です。

もし[Mode4]が、その他のスイッチのようにLFOの深さと速さを制御するためではなく、増幅器の挙動を制御するために存在している、と仮定すると――平たく言えば、プリセットを呼び出すための[Mode1][Mode2][Mode3]とは違い、ウェット信号の減衰を断つ(エフェクトのかかり方を強める)ためのスイッチである、と仮定すると――開発者の方がひとつだけ色を変えたことに明確な意図が見いだせるのです。

▲Arturia「Chorus DIMENSION-D」。実機の再現から一歩踏み込んで、LFOの形状変更や、ステレオ感のさらなるブーストを実現しています。

余談ながらArturia「Chorus DIMENSION-D」では、[Mode4]を単体で押下させない、という厳格な仕様を採用することで、ウェット・ブースターとしての役割をより鮮明にしています。

モード4は特殊用途です。モード4は単体では動作せず、モード1~3と同時押しで使用します。モード4をオンにすると、ウェット信号のレベルが上がります。つまり、基本的にはウェット信号のゲインアップスイッチです。モード4が単体では動作しないのはこのためです(ネットではモード4の機能について諸説ありますが、オリジナル機を測定した結果このような事実が判明しました)。

「Chorus DIMENSION-D」ユーザーズ・マニュアル

謎3:同時押しに意味はあるのか?

謎3の答えは、公式サイトの「DC-2W Dimension C」製品情報ページにサラッと書かれていました。

オリジナルのSDD-320では、複数のボタンを押してサウンドのバリエーションを増やす使い方が一部のエンジニア達に広まっていましたが、実際はこの方法で増えるバリエーションは、設計上2つだけでした。

「DC-2W Dimension C」製品情報ページ

「設計上2つだけでした、2つだけでした、2つだけでした……」と、絶望エコーが聴こえてきそうな衝撃!! 同時押しに意味があったのは救いですが、まさかたった2つだけだったとはっ! ここで、謎2を振り返りつつ、検算してみましょう。

謎2の答えは、Roland「SDD-320 Dimension D」の[Mode4]は、ウェット信号を増幅するためのスイッチであり、プリセットを呼び出すためのものではない、でした。

ここに、「Chorus DIMENSION-D」のユーザーズ・マニュアルに記載されているArturiaの検証結果を加えます。

オリジナル機では複数のモードボタン、さらに言えば全部のモードボタンの同時押しができますが、それでコーラス音が変わることはありません。事実、モード1~3のうち複数のボタンを押した場合、実際に選択されるのは数字が大きいモードで、仮にモード1~3のボタン全部を押しても、選択されるのはモード3です。同時押しで効果があるのはモード4だけで、これはオリジナル機でもプラグインでも同じです。

「Chorus DIMENSION-D」ユーザーズ・マニュアル

さらに、KVRのフォーラムに投稿された“「SDD-320 Dimension D」は、[Mode4]のみを押下した場合、[Mode3+4]として処理される”というArturiaの非公式的な書き込みを信じることにします。

以上3つの要素を総合すると、考えうる全バリエーションは……

[Mode1]

[Mode1+4]

[Mode2]

[Mode2+4]

[Mode3]

[Mode3+4]

の6バリエーションとなります。[Mode3+4]は[Mode4]オンリーと同じ処理ですから、意味のある同時押しは、[Mode1+4]と[Mode2+4]だけ! ということは、2バリエーション! おおっ、公式の見解と完全に一致します!

いやぁ、スッキリしました! 私は今、永年の煤を払った大仏さまのような清々しい気持ちに包まれております。……えっ!? こだわりと称してスイッチをガチャガチャやってたのがアホみたい? いやいや、それで気持ちよく演奏できてベスト・テイクが録れたのならば、オールOKではないですか!

さて、スッキリの余韻にしばらく浸っていたいところですが、まだまだ深堀りしてまいりましょう。今回購入したBOSS「DC-2W Dimension C」は、

SDD-320モードでは、2つのモード・セレクター・ボタンを同時押しできるようにすることで、この裏技サウンド2つと「中間音」4つ、合計6つのサウンド・バリエーションを実現しました。

S(スタンダード)モードは、(中略)オリジナルのDC-2では不可能だった2ボタン同時押しも可能となり、新しくデザインされた6通りの「中間音」が加わっています。

「DC-2W Dimension C」製品情報ページ

とのことでして、公式が二次創作を逆輸入しちゃった、あるいは、モノマネしていた栗田貫一さんの方がルパン歴が長くなっちゃった、とでも言いましょうか、ますます「SDD-320 Dimension D」のオカルト化が進み、得体の知れないモンスターになってしまいそうな懸念が爆発する、愉快な仕様がシレッと実装されております。これで、思う存分意味のあるガチャガチャができますね、スバラシイ!

“裏技サウンド2つと「中間音」4つ、合計6つのサウンド・バリエーション”ってのを、指折り数えてみたのですが、どうにも中間音が1つ足りない。順当に考えると、

裏ワザ:[Mode1+4][Mode2+4]

中間音:[Mode1+2][Mode1+3][Mode2+3][Mode3+4]

という構成以外ありえないのですが、となると、本来の[Mode3+4]は[Mode4]へ集約して、新たな[Mode3+4]をこしらえた、と推測するのが妥当ですかね。オリジナルの再現を至上とする方は、ご参考になさってください。

聴音篇

さぁ、おまっとさんでした! 「SDD-320 Dimension D」の聴き比べ大会でございます! あいにくオリジナルを所有していないので、似ているかどうか、よりも、それぞれどう違うのか、を楽しんでいただければ幸いです。正規軍対正規軍(対Arturia)の時代とプラットフォームを超えた熱き戦い、どうぞご堪能ください。

<参加選手>

  • BOSS「DC-2W Dimension C」 SDD-320モード
  • BOSS「DC-2W Dimension C」 S(スタンダード/「DC-2 Dimension C」準拠)モード
  • BOSS「CE-20」 DIMENSIONAL Dモード([MODE][RATE]以外のツマミはすべて、もっともノーマルな12時に設定)
  • Roland「ZENOLOGY FX」 SDD-320モード
  • Arturia「Chorus DIMENSION-D」

<競技>

  • ギター:エフェクト音の滲み、きらめき、立体感の違いを味わえます。エレピとの差別化を鮮明にするため、定番のエレキではなくアコースティックなサウンドを選定してみました。
  • エレピ:低域の厚み、アタック部分のコンプレッション具合、ステレオ感の違いを味わえます。

<種目>

  • [Mode2]:マイルドなセッティング
  • [Mode4]:大本営おすすめのセッティング
  • [Mode1+4]:私の大好きなセッティング

ちなみに、Arturiaの分析によると、各Modeは以下のように設定されているそうです。

ボタン1~3は、それぞれ別々のモジュレーションの深さ、ディレイタイム、LFO設定になっています。基本的に、モード1は最もソフトなコーラスで、モード2はモジュレーションがやや深く、ディレイタイムはモード1の約半分です。モード3のディレイタイムはモード1と2の中間的な設定ですが、LFOによるモジュレーションの深さはモード1や2の2倍で、より効果が分かりやすい設定になっています。

「Chorus DIMENSION-D」ユーザーズ・マニュアル

エンドレス・エニグマ篇

いかがでしたでしょうか?

私は、「DC-2W Dimension C」のSDD-320モードとSモードがお気に入りでした。心底、買ってよかったなぁ、と思います。また、正規軍ではありませんが、Arturiaのサウンドも十分に素晴らしく、ときどき一瞬不安定な鳴りになるところを除けば、ほとんど「DC-2W Dimension C」のSDD-320モードと区別が付きません。

▲Roland「ZENOLOGY FX」。元は同社のソフト・シンセ「ZENOLOGY」にエクスクルーシブで内蔵されていたものですが、エフェクト・プラグインとして独立。さまざまなソースに対して“Rolandの、あのサウンド!”を適用できるようになりました。

他方、「CE-20」と「ZENOLOGY FX」の雰囲気がめちゃくちゃ酷似しているのは、たいへん興味深いポイントです。時代もプラットフォームも違うのに何故? と不思議でしたが、私は、両者にとある共通点を見つけました。それは、「DC-2W Dimension C」製品情報ページにて存在を完全否定されている[Mode3+4]が仕様に盛り込まれている点です。

▲BOSS「CE-20」取扱説明書より引用。スイッチに見立てた[RATE]ツマミの挙動について記されている箇所の抜粋なのですが、ハッキリと[Mode3+4]が明記されています。

部外者の邪推でしかありませんが、「CE-20」開発のタイミングで作成された「SDD-320 Dimension D」のやや不完全な研究資料が、“アナログの知見の系譜”から枝分かれした“デジタルの知見の系譜”の中でだけ脈々と受け継がれている…… のかもしれません。

さすが、暴いても暴いても謎を振りまいてくれる「SDD-320 Dimension D」! そもそも、どうしてオーナーズ・マニュアルに嘘とも受け取れる情報が書かれていたのか、という最大の謎にも迫りたいところですが、何もかもを丸裸にしてしまうのは、あまりに無風流というもの。この辺で筆を置くことにいたしましょう。

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