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原点にして頂点、「Minimoog Model D」

ついにこの日がやって来ました。シンセ・オブ・シンセス、Moog「Minimoog Model D」でございます! 今回は、サウンド・デモを多めに用意いたしました。それでは、どうぞっ!!

Minimoogとは、いったい何なのか?

2022年リイシューのMoog「Minimoog Model D」を購入いたしました。さまざまな界隈で“〇〇を知らずに~を語るな!”という格言がありますが、「Minimoog Model D」を知らずにシンセについて講釈を垂れるのは良くないぞ、と己を律するフリをして、ただ単に欲望に負けた次第であります。

それはさておき、多くの伝説級ミュージシャンたちをして“原点にして頂点”と言わしめる「Minimoog Model D」とは、いったい何なのか? 「Moog One」との比較も交えながら、ひとつずつ見てまいりましょう。

現行シンセサイザーの頂点「Moog One」中途半端に心根を隠して淡々とご紹介するのもなんだか薄気味悪いですし、かと言って、「これくらいは大人の嗜み。たいしたことではござぁせん」な...

基本仕様はオリジナルと同一

「Minimoog Model D」が、3オシレーター搭載の減算合成方式モノフォニック・アナログ・シンセである、というのは誰しもが知るところ。この基本となる仕様は、2022年リイシューも、1970年にリリースされたオリジナルと完全に同一です。

ただ、そのアイデンティティーは堅持しつつも2022年にリリースする意義のあるスタイルを、ということで、いくつかの細やかな仕様追加がなされています。具体的には、スプリング内蔵ピッチ・ホイール/ベロシティ&アフター・タッチ対応鍵盤/独立LFO/MIDI機能(改良版)/CV端子/外部電源/ミキサー回路のフィードバックの搭載なのですが、もっとも、2016年に1度リリースされたリイシューの時点で、ベロシティ&アフター・タッチ対応鍵盤/独立LFO/MIDI機能/CV端子/外部電源/ミキサー回路のフィードバックはすでに搭載されており、そこまで大幅なバージョン・アップではないようです(一番大きな違いは、使用している木材と着色法かもしれませんね[2022年リイシューだけがアパラチアン・チェリーで、他はチークかウォールナット])。

Minimoogの魔力

ここからは、音楽家たちを魅了してやまない“Minimoogの魔力”について、紐解いてまいりましょう。

散々語り尽くされてはいますがどうしてもスルーできないのが、やっぱりそのサウンド。電気の流れをも感じさせる高密度なオシレーター、フィルターのモッチリとした芳醇なクセ、極限までシンプルなのに驚愕するほど多彩なルーティングを可能にしている柔軟な設計。「Minimoog Model D」を構成するあらゆるすべてが混然一体となって、“無骨さと繊細さ”という相反する要素を高次元で併せ持つ奇跡のサウンドを生み出しています。……野性味あふれる凶悪な音を出したかと思えば、ほんの少しツマミを回しただけで、まったく違う優しい表情を見せる。決して、スイート・スポットが狭いわけではなく、出せる音、いや、出したくなる音の幅がとてつもなく広い、そういった印象です。

また、サウンドと同じくらい大切なのが、“モノとしての存在感”かもしれません。「Leica(ライカ)」という老舗のカメラ・メーカーがありますが、ちょうどそのライカのカメラを使って写真を撮るときの“心臓の高鳴り”に似た、シャキッと澄み切ったまっすぐな気持ちで音楽に向き合おう、という神聖な高揚感をもたらしてくれるのです。無論、たくさんの音を鳴らせる便利な電子楽器は他にいくらでもあるでしょうし、肉薄する音を鳴らせるソフト・シンセもあるでしょう。しかし、音楽家の精神を限界突破してくれる素敵プロダクトは、世に数えるほどしか存在しないのであります!

「Moog One」&「Mini V3」との比較

それでは、実機代表「Minimoog Model D(2022年リイシュー)」、Moog代表「Moog One」、エミュレーター代表Arturia「Mini V3」の3機種で、音色を聴き比べてみましょう! なお、各音色は、ツマミの位置関係から追い込んでいったのですが、どう頑張っても似てくれない音色もありました。あらかじめご了承ください。

◆「Minimoog Model D」のベース

◆「Moog One」のベース

◆「Mini V3」のベース

まずはベースから。「Minimoog Model D」は、低域から高域まで無理なく出ているうえに、濃度がとにかく高い! モッチモチです。「Moog One」は、回路の違いがそうさせるのか、モノフォニック・モードにしても、1歩奥に下がったような響きです。ラダー・フィルターにもモッチリ感はなく、少々ガサついた印象。しかしながら、処理がもたつかず、キビキビとMIDIに追従する点はさすが。「Mini V3」は、ロー・カット感のある軽やかなサウンドです。1音1音の再現度はそれなりに高いのですが、流れで聴くと横のつながりがややぎこちないかも。

◆「Minimoog Model D」のアルペジオ

◆「Moog One」のアルペジオ

◆「Mini V3」のアルペジオ

次に、アルペジオ系のフレーズ。「Minimoog Model D」は、切れがあるのにわざとらしくないアタック感が、とても気持ち良いです。「Moog One」は、“三角波とノコギリ波のハイブリッド波形”が再現できないため、かなり異質な仕上がりになってしまったものの、「FMエレピっぽい音が出せるんだなぁ!」という別の気付きを得られました。「Mini V3」は、かなり頑張ってくれましたね、大健闘です! 総じて似ているのですが、どんなにスロー・アタックにしてもトランジェントのカツカツ感が残るのは謎。

◆「Minimoog Model D」のリード

◆「Moog One」のリード

◆「Mini V3」のリード

最後に、フィルターを開いていくリード。「Minimoog Model D」の、艶のある“ポワッ”としたアタック部分、ぜひそこをご堪能ください。「Moog One」の“ポワッ”は、ちょっと控えめ。こうして聴き比べると、この音色に限らず全体的にフィルターの“生れ出づる感”が物足りない気がします。「Mini V3」は、ここでもやはり、中低域がすっぽ抜けたような感じに。フィルターが開いていく過程は、まぁまぁ似ています。

ちなみに今回、エミュレーターの代表に「Mini V3」を選びましたが、これは、UIが優秀で実機のツマミ位置を再現しやすかったから。フィルターのモッチリ感やサウンドの密度感という点を重視するならば、間違いなくU-he「Diva」の方が一枚上手だったと思います。ただ、用意されているパラメータ群が実機とだいぶかけ離れているせいで、“聴き比べ”に向いておらず……

トラディショナルで新しい


こちらは、2022年3月9日に発表した自作曲をフル・リメイクした作品。「Minimoog Model D」は、1分過ぎから出てくる気だるいシンセ・リードを担当しています。トラディショナルなのにヤレ感がない新鮮なサウンドは、リイシューでしか出せない独特の質感だと感じました。ここからどう枯れていくか、という楽しみにもつながりますね。

途中、これ見よがしにピッチ・ベンドをかけていますが、これはDAWからMIDI経由で制御した産物。「デジタルを介した演奏では、アナログ感が希薄になるのでは?」という不安を、クリーミーかつなめらかな反応で、見事に払拭してくれました。

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